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Roland stained glass at Chartre

『ロランの歌』登場アイテム

但書: 以下は、『ロランの歌』に登場する剣などの登場箇所の引用です。また、自分なりの考証をしてみました。原文つづりなどの多くは、星印のついた各種アイコン(*, * , * )をカーソルでなぞると吹き出しに出る仕様に変更しました。より読みやすくはなったと存じます。
  • 原典すなわち底本とされる「オックスフォード本」(O本)のつづりを、[原典]と付記して掲載し、 CAPITAL(大文字)で示した。原語は、古フランス語系統で、一般にアングロ=ノルマン語などと呼ばれる。
  • 現代語式のつづりは、[仏]、[英]などと付記してある。
  • グリーン色の文字は、私による注記で、岩波版の訳・注釈以外の典拠による解説や、 私の独自の調査・説による。
 テキスト引用は、邦訳は岩波文庫本(有永弘人訳)を用いていたが、日本の著作権法の 解釈・判例を考慮して、大部分は、拙訳に切り替えることにした。 詩節(レース)と行番は、岩波文庫本のものをそのまま記してある。

  • {拙訳} 当ウェブページ筆者の和訳。
  • {原典}は、前述のO本からの引用。
  • {英訳}は C. K. Scott-Moncrieff 訳。
いずれも電子テキストが入手可能(ページ末の 関連リンク集を参照)。

所有者名簿
1. ガヌロン伯Ganelon
2. ロラン伯Roland
3. チュルパン大司教Turpin
4. オリヴィエOlivier
5. シャルル大帝Charles
6. フランス勢の軍旗oriflamme
7. サラゴサ王マルシルMarsil(敵)
8. 総督バリガンBaligant(敵)

付録
軍馬の一覧
サラセンの称号の表

固有武器名(アイウエオ順)
アルマスAlmace(チュルパン大司教)
オートクレールHauteclaire(オリヴィエ)
ジョワイユーズJoyeuse(シャルル王)
デュランダルDurendal(ロラン伯)
プレシューズPrecieuse(総督バリガン)
マルテMaltet(総督バリガン)
ミュルグレスMurgleis(ガヌロン伯)

その他作品
『ローラントの歌』リート (中世ドイツ詩)
『カルル大王のサガ』
『フィエラブラ』
『ヴィエンヌのジェラール』
『ロランの結婚』(ユゴー作・近代詩)
『クロックミテーヌ』(レピーヌ作・小説)

剣名(『ロランの歌』以外)
アルマツィア[=アルマス]Almacia(『サガ』)
グラバムGrabam(『フィエラブラス』[英])
クルト[=コルタン]Kurt(『サガ』)
クロザモン?Musaguine(『ロランの結婚』[仏・近代])
グロリウス[=グロリユーズ]Musaguine(『クロックミテーヌ』[仏・近代])
コルタン/クールテインCortan/Courtain(『フィエラブラス』[英])
ジョイウス[=ジョワイユーズ]Ioyouse(『フィエラブラス』[英])
ソーヴォジーン[=ソヴァジーヌ]Sauuogyne(『フィエラブラ』[英])
デュランダルDurandal(『フィエラブラス』[英])
デュルムダリ[=デュランダル]Dyrumdali(『サガ』)
バプティズム[=バプテェーム]Baptysme(『フィエラブラス』[英])
プルウァーランス[=フローランス]Plourance(『フィエラブラス』[英])
フロベルジュ[=フランベルジュ]Floberge(『フィエラブラス』[英])
ホールトクレール[=オートクレール]Haulteclere(『フィエラブラス』[英])
ムサグイン[=ミュサギーヌ]Musaguine(『フィエラブラス』[英])

1. ガヌロン伯 Ganelon[仏], GUENES, GUENELUN[原典]
ロランの義父、つまりロランの母(シャルルマーニュの妹)の再婚相手。 この逆臣がサラセン人と結託して奇襲をしかけたため、ロランや十二臣将ドゥーズペール→用語)たちは、ロンスヴォーの谷の戦いで命を落とす。背叛の咎で、四つ裂きの刑に処される。

ガヌロンの剣と馬について..
第28節345行-
{拙訳}
[ガヌロン伯は、..] 黄金の拍車をあしに具し、
その剣ミュルグレスを脾腹にき、
軍馬タシュブランにまたぎ乗る。  
{原典} 
      ESPERUNS D OR AD EN SES PIEZ FERMEZ,
      CEINT MURGLIES S ESPEE A SUN COSTED,
      EN TACHEBRUN SUN DESTRER EST MUNTED,
{英訳} 
     Spurs of fine gold he fastens on his feet,
     And to his side Murgles his sword of steel.
     On Tachebrun, his charger, next he leaps,
ミュルグレスが黄金柄の剣であること..
第36節465行-
{拙訳}
     されども[ガヌロン]、つるぎを手放すをよしとせず
     黄金の柄頭ポンモウを右手にし、刃を執る
{原典} 
      ... MAIS DE S ESPEE NE 
      VOLT MIE GUERPIR,
      EN SUN PUIGN DESTRE PAR L ORIE PUNT LA TINT.
{英訳} 
     [These he throws down,] ..
     But not his sword, he'll not leave hold of it,
     In his right hand he grasps the golden hilt.
剣に聖遺物が内蔵されていること..
第47節605行-
{拙訳}

  [サラセン王マルシルは尋ねる..]
605  「ならば、しかと誓うかそなた、
            ロランのやつめを裏切ると」
  これにガヌロン答えるに、
            「御意のままに致しまする」
  剣ミュルグレスの聖遺物にかけて、もののふは、
  叛逆ねがえりすることを誓われたり。
{原典} 
    ...LA TRAISUN ME JURREZ DE ROLL».
     CO RESPUNT GUENES, «ISSI SEIT, CUM VOS PLAIST». SUR LES 
     RELIQUES DE S ESPEE MURGLEIS
     LA TRAISUN JURAT, 
{英訳} 
     Said Marsilie -- but now what more said they? --
     "No faith in words by oath unbound I lay;
605  Swear me the death of Rollant on that day."
     Then answered Guene: "So be it, as you say."
     On the relics, are in his sword Murgles,
     Treason he's sworn, forsworn his faith away.
                         AOI.

2. ロラン Roland[仏]; ROLL, ROLLANT[原典]
『ロランの歌』の悲劇的主人公。原典ではロール(→解説)ともまた呼ばれる。爵位は、コント*comte[仏], QUENS[原典]とも、 辺境候マルキ*marquis[仏], MARCHIS[原典]とも(→解説)されるが、シャルル大王の十二臣将ドゥーズペールのなかでも無双の殊勲をほこる騎士であるのみならず、シャルル大王の甥、すなわち王妹(王姉)の子(→註)でもある。 実父はすでに亡く、逆臣ガヌロンが今ではロランの継父ボ・ペール*beau père[仏]である。
 歴史上のベースは、ブルターニュ辺塞へんさい国を治め、ピレネー山脈の峡谷でワスコネス人*Wascones[羅]。 バスク人ともガスコーニュ人ともいわれる。の奇襲に斃れたと記されるフルオドランドゥス[羅]*Hruodlandus[羅]→典拠)なる人物だ。
 ロランの死に場所は、なぜか四つの大理石の礎石ペロン*perrons[仏], PERRUNS[原典], terraces[英訳](または「標石四つ」→引用説明)が置かれた風景のなかだ。 その石の正体は神秘めいていて、自然形象なのか、人為的な建造物のなのかは、はっきりしない。 ロランは、この場所で、とわずがたりしつつ、名剣デュランダルが自分のものになったいきさつを喋り明かすのである。
 ついには、敵の戦利品にくれてやる惜しさにデュランダルを大理石に叩きつけて折ろうとするが、果たせない。
 兜をつけたままのロランが敵に渡すまじと剣を石に叩きつけるシーンと、素顔のロランが遅ればせながら援軍要請の象牙の角笛を吹くシーンは、シャルトル大聖堂のシャルルマーニュのステンドグラス*Vitrail de Charlemagne, Verrière de Charlemagne[仏]→画像 →用語)に描写される。

ロランの出自はイタリア? (参照:)

 ロランの父母と出生について詳しい作品で由緒の古いのは、イタリア語とフランス語の混交の文体でかかれた中世詩『ベルタとミローネベルトとミロン』*Berta e Milone[伊], Berthe et Milon[仏]と『オルランディーノロランダン』*Orlandino[伊], Rolandin[仏]だ(→作品解説)。

 前者の作によれば、シャルルの姉(妹)ベルタベルト*Berta, Bertha[伊仏], Berte, Berthe[仏]と、ミローネミロン*Milone[伊仏], Milon[仏]が不義の密通をしてシャルルの逆鱗にふれ、フランスを追われる身となる。
 ミローネは、ベルナルド・ディ・キアロモンテベルナール・ド・クレールモン*Bernardo di Chiaromonte[伊], Bernard de Clairmont[仏]を父親にもつイタリア系の士族で、二人はプロヴァンスを抜けて、イタリアに落ち延び、道筋を、北部のパヴィア市から、東の港町ラヴェンナへとたどる。
 そこからロマーニャ州の方向にむかうが、すでに懐妊していたベルタは、イモーラ*Imolaの近くで産気づき、厩でロランを産む。一家はローマの北西の町ストリに落着き、ミロンは杣夫きこりとして細々と生計をたてる。

 次の作品(『オルランディーノ』)では、非凡な才覚をあらわすロラン少年が描かれる。

 その少年の暮らす町ストリに、シャルル大帝が御幸にまいられ、仮宮をひらき、町民に饗応をふるまう。ロランは、侍従を押しのけ尻餅をつかせ、ずかずかと王に近寄り、その大盤の皿に大盛りにされた料理を何杯もたいらげてみせる。
 陛下は大いに興に入り、また、少年に類まれなる大器の片鱗を見る。そこで、父母への手土産にと、テーブルクロースを風呂敷がわりに、つめこめるだけの料理を持たせてやり、ネーモ公*Naimo[伊], Naimes[仏]とテリス*Terisにこれを尾行させ、素性を確かめさせる。

 さんざんの思いののち、やっとのことで公爵は、その父母が逃走中のベルタとミローネだとつきとめる。公は、よきに計らうと約して二人を陛下にお目通りさせる。二人を目前にしてシャルルは激怒するが、ロランが両親をかばい、シャルルの手をとって、爪先から鮮血がほとばしる振りまわし、「父上や母上に危害をくわえようとするやつは、僕が拳をお見舞いししてやるからな」と王にせまる。度肝をぬかれた王は、このたのもしい甥に免じて、王は姉(妹)ベルタとミローネを赦すことにし、公然の前であらためて結婚をとりおこない、「このロランをわが息子と思うぞ」とのたまうのである。

父の故郷は?

  ロランの父は、ミロン・ド・アングレール*Milon d'Anglers/Angler [仏]という出身地名を付して称される(* →父の名には変体つづりが多い)。この出身地名アングレールとは、北イタリア・ロンバルディア州のアンジェラ市の古名であるらしい。

 ロランの父が、アングレール(またはその変形)の出身として登場している作品には、私が確認した中では、 『カルル大王のサガ』、スペインの『ミロン・デ・アングランテの愛とロルダンの誕生と生立ち』*Los Amores de Milon de Anglante y el nacimiento de Roldan y sus niñerias  [西]、『狂えるオルランドー』を挙げることができる。

 なお、ミロン・ド・プイーユ*という名の、オリヴィエの伯(叔)父が、武勲詩『ヴィエンヌのジェラール』*Gérard de Vienne[仏], Girart de Vienne[古仏]には存在する。

プイーユが、イタリア南端のアプリア州*Apulia, Puglia[伊](→地図)だということは、なんとも思わせぶりではないか。単なる邪推であるスペキュレーションに過ぎないが、 もしアプリアのミロンが、ロランの父アングレールのミロンと同一であるならば、ロランとオリヴィエは従兄弟同士ということになる。

「シャルルの罪」の伝説

 別の伝承もある。それは、シャルル自身が姉(妹)のベルト(またはジゼル*Gisle, Gisele[仏])と交わり、ロランを孕ませたというものだ。

 この「シャルルの罪」*pécheé de Charlemagne[仏]の告白をうけたのが、聖ジル(アエギディウス)*Giles[英], Gilles[仏], Aegidius[羅](8世紀)だという伝説もある(→註)。その伝説によれば、フランス王シャルルの懺悔の場に天使が現れ、自らの口からその過ちを言いあぐむ王にかわって罪状をしたためた巻物を置いてゆき、しかるべき償いをすれば赦されることを告げた。(『ロランの歌』第156節:2096行に登場する聖ジルの難解なくだりは、実はこのことにふれている。)(→岩波註)

 早期の古フランス語や中世ラテンのテクストでは、「シャルルの罪」に婉曲的にふれるだけだという。しかし、後世の作品はより直截的で、例えば武勲詩『トリスタン・ド・ナントゥイユ』*Tristan de Nanteuil(21707-08行)に「実姉(妹)に対し罪をおかしたことからロランは生を享け..」*ce fut le peché quant engendra Roland/En sa sereur germaineとある。(→資料)。

 また、『カルル大王のサガ』にもシャルルの罪にについて詳しいので、その部分の抜粋を(→訳出掲載)した。

 

デュランダルの初出..
第75節926行
最初にこの名剣の名が出されるのは、持ち主のロランによってではなく、敵方によってである。
トルトローズ市を治めるチュルジス伯」というサラセン人が、自慢の「[このわが]良き長き剣で、[ロランのやつめの]デュランダルとやいばを交えようぞ」、と誓うくだりだ。

*デュランダルについては(→岩波訳本の巻末注)も参照。

{原典} 
      ..TURGIS DE TURTELUSE,
      CIL EST UNS QUENS, SI EST LA CITET SUE,
              :                 :
 925 EEZ M ESPEE, KI EST E BONE E LUNGE.
     A DURENDAL JO LA METRAI ENCUNTRE,
{英訳} 
     ..Turgis of Turtelose,
     He was a count, that city was his own;
              :                 :
 925 See here my sword, that is both good and long
     With Durendal I'll lay it well across;
デュランダルの柄について..
84節1053行-
{拙訳}

  ロラン答えて「それぞ、痴れ者がごとき所業!」
  甘美たるドゥースフランスにて、わが名誉、損なうものなり。
  いまなおデュランダルをもて、大きく振りかぶり、
  黄金の〔柄〕まで浸るほどに、刃を血塗らせて
          みせようぞ。
岩波訳も白水社(神沢栄三訳)も、「うましフランス」という表現を用いる。
{原典} 
      RESPUNT ROLL, «JO FEREIE QUE FOLS,
      EN DULCE FRANCE EN PERDREIE MUN LOS.
 1020 SEMPRES FERRAI DE DURENDAL GRANZ COLPS,
      SANGLANT EN ERT LI BRANZ ENTRESQU A L OR. 
{英訳} 
     Answers Rollanz: "A fool I should be found
     In France the Douce would perish my renown.
1055 With Durendal I'll lay on thick and stout,
     In blood the blade, to its golden hilt, I'll drown.
デュランダルを叩きつけて折ろうとした場所.. 
169節2267-
{拙訳}
      
     ..そは、美々しき一本ひともとの樹の下、
     大理石づくりの四つの礎石ペロンのあるところ。
岩波訳では「標石四つあり」→用語
{原典} 
      ..DESUZ UN ARBRE BEL, QUATRE PERRUNS I 
      AD DE MARBRE FAIZ, 
{英訳} 
     ..where, under two fair trees,
     Four terraces, of marble wrought, ..
デュランダルをシャルルが享受するくだり..
173節2318行-
{拙訳}

  おりしも、シャルルがモリアーヌの谷におわせしとき、
  天にまします神は、天使にことづけて命ぜられた、
  汝、これ〔デュランダル〕を伯なる隊長に与えよと、
  さすれば、お優しき大王は我にこれをかせたり。
             :
モリアーヌという地名は?(→解説
{原典}
      CARL ESTEIT ES VALS DE MORIANE,
      QUANT DEUS DEL CEL LI MANDAT PAR SUN ANGLE, 
      QU IL TE DUNAST A UN CUNTE CATAIGNIE,
      DUNC LA ME CEINST LI GENTILZ REIS LI MAGNES.
{英訳} 
     In Moriane was Charles, in the vale,
     When from heaven God by His angel bade
2320 Him give thee to a count and capitain;
     Girt thee on me that noble King and great.
デュランダルの聖遺物について..
第174節2345行-
{岩波訳}

     その黄金の柄の中、聖遺物あまたあり。
     聖者ペトロの歯あり、聖者バジルの血あり、
     わが殿たる聖者ドゥニの毛髪あり、
     聖母マリアの衣片あり。
*聖遺物 (→表記や、他の作品では異なる内容の品について)
{原典}  
     EN L ORIET PUNT ASEZ I AD RELIQUES
     LA DENT SEINT PERRE E DEL SANC SEINT BASILIE  
     E DES CHEVELS MUN SEIGNOR SEINT DENISE,
     DEL VESTEMENT I AD SEINTE MARIE.
{英訳} 
2345 Relics enough thy golden hilt conceals:
     Saint Peter's Tooth, the Blood of Saint Basile,
     Some of the Hairs of my Lord, Saint Denise,
     Some of the Robe, was worn by Saint Mary.
ヴェイヤンティフについて..
第92節1152行-
{拙訳}
   スペインの峠を、ロランはいざゆかん
   馳せる良馬ヴェイヤンティフに乗りて、
   その纏いし武具の、いとふさわしきにして
* ヴェイヤンティフの名の意味(→岩波訳本の脚注
{原典}
      AS PORZ D ESPAIGNE EN EST PASSET ROLL
      SUR VEILLANTIF SUN BON CHEVAL CURANT,
      PORTET SES ARMES,MULT LI SUNT AVENANZ,
{英訳}
      To Spanish pass is Rollanz now going
      On Veillantif, his good steed, galloping;
      He is well armed, pride is in his bearing,
角笛で敵を殴打する..
第171節2287行-
{拙訳}
     [デュランダルを持ち去ろうとする
      敵に対し、ロランは]
     失うに惜しかる象牙笛オリファンを執りて、
     宝石ちりばめた黄金の兜ごと、そやつを、
          打ち据えたり。
     それは鋼、頭蓋、骨をも砕き、
2290 両の目玉、頭より飛び出るなり;
   :  :
2295 さしもの象牙笛オリファンもこれにてこぼれ、
   水晶も黄金も、はげ落ちる。」
{原典}  
      TIENT L OLIFAN,QUE UNKES PERDRE NE VOLT , 
      SIL FIERT EN L ELME, KI GEMMET FUT A OR.
      FRUISSET L ACER E LA TESTE E LES OS,
      AMSDOUS LES OILZ DEL CHEF LI AD MIS FORS, 
      JUS A SES PIEZ SI L AD TRESTURNET MORT.
        :    :
      FENDUZ EN EST MIS 
      OLIFANS EL GROS,
      CAIUZ EN EST LI CRISTALS E LI ORS.
{英訳} 
     Took the olifant, that he would not let go,
     Struck him on th' helm, that jewelled was with gold,
     And broke its steel, his skull and all his bones,
2290 Out of his head both the two eyes he drove;
        :   :
2295 But my great one, my olifant I broke;
     Fallen from it the crystal and the gold."
角笛の奉納..
第268節3684行-
{拙訳}
     [帝、]〔〇〇の〕ボルドーの都に参り、
     勇士バロンたるサン・スーランの祭壇に
    マンゴン貨幣で一杯につめた象牙笛オリファンを納めたり。

* オリファンの奉納。(→注
{原典}  
      VINT A BURDELES LA CITET DE ,
      DESUR L ALTER SEINT SEVERIN LE BARON
      MET L OLIPHAN PLEIN D OR E DE MANGUNS,
      LI PELERIN LE VEIENT, KI LA VUNT.
{英訳}  
     Come to Burdele, that city of high valour.
     Above the altar, to Saint Sevrin endowed,
     Stands the olifant, with golden pieces bound;


3. チュルパン大司教 Archévêque Turpin[仏], ARCEVESQUE TURPIN[原典]
ランス*Reims[仏]→解説)の大司教。チュルパンは、 手始めに「大業物の矛」*GRANT ESPIET[原典]、great spear[英訳]」(96節1248行)を振るうが、やがてアルマスという剣を抜刀して戦闘する。(→僧侶の武器の解説)

 チュルパンを、霊験あらたかな大司教だとするならば(→根拠)、異教徒の魔術師アンシャントゥールシグロレル*SIGLOREL L ENCANTEUR[原典](109節1390-1行)や魔法ミラクルの盾を持つアビーム*Abîme[仏]; ABISME[原典]=その名も「奈落/地獄」 を倒すに(127節1658行-)は、まさにうってつけの役と言えるのではなかろうか。

剣アルマスについて..
第156節2089行-
{拙訳}

     [チュルパン]は、褐色の鋼剣アルマスを抜き、
2090 多勢の群のまったただなかを、千度ちたびあまり打ちまくる。

岩波訳は「刃金輝く」であるが、それは、すでに→用語解説したとおり、「磨きぬかれた鋼」だとの解釈が一般的なため。

{原典} 
     IL TRAIT ALMACE S ESPEE DE ACER BRUN,
     EN LA GRANT PRESSE MIL COLPS I FIERT ET PLUS,..
{英訳} 
      He's drawn Almace, whose steel was brown and rough,
2090 Through the great press a thousand blows he's struck:
アビームとの戦い..
第127節1658行-
{拙訳}

大司教は、猛威をふるい、[乗駒に]拍車を掛ける。
アビームを討ち果たすまで、容赦すまじと。
1660 されば[チュルパンが]打ちすえし、その魔法ミラクルの盾には、
(1500) とりどりの宝石あり、アメジストやトパーズ、
エステルミナルや燃ゆるカーバンクル*あり。
かつてヴァル・メタスの谷にて悪魔めが、
総督ガラフに与え、いまここに伝わりしものなり。
1665 されどチュルパンには一匙の手加減なく、
(1505) その一撃のもと、盾は、もはや 一ドゥニエの値打ちもあらず。
その図体からだを、両の片腹にわたり斬りとおし、
かばねと化しを、空いた地面にに放り落とす。

* 1501行―カーバンクル(→宝石等用語解説
1501行―1ドゥニエ(→銀貨)

{原典}
 ..LI ARCEVESQUE BROCHET PAR TANT GRANT 
    VASSELAGE, NE LAISSERAT, 
      QU ABISME NEN ASAILLET,
    VAIT LE FERIR EN L ESCUT A MIRACLE.
    PIERRES I AD AMETISTES E TOPAZES
    ESTERMINALS E CARBUNCLES, KI ARDENT,
    EN VAL METAS LI DUNAT UNS DIABLES,
    SI LI TRAMIST LI AMIRALZ GALAFES.
    TURPINS I FIERT, KI NIENT NE L ESPARIGNET, 
    ENPRES SUN COLP NE QUID, QUE UN DENER VAILLET, 
    LE CORS LI TRENCHET 
      TRES L UN COSTET QU A L ALTRE, 
    QUE MORT L ABAT EN UNE VOIDE PLACE.
{英訳}
     That Archbishop spurs on by vassalage,
     He will not pause ere Abisme he assail;
1660 So strikes that shield, is wonderfully arrayed,
     Whereon are stones, amethyst and topaze,
     Esterminals and carbuncles that blaze;
     A devil's gift it was, in Val Metase,
     Who handed it to the admiral Galafes;
1665 So Turpin strikes, spares him not anyway;
     After that blow, he's worth no penny wage;
     The carcass he's sliced, rib from rib away,
     So flings him down dead in an empty place.

笏杖[十字架]について..
127節1669-70行
{岩波訳}

     フランス勢いう、「また、見事なる武者振りかな!
     大司教の手中にありて、その笏杖は安泰なり!
{原典} 
      DIENT FRANCEIS, «CI AD GRANT VASSELAGE,
      EN L ARCEVESQUE EST BEN LA CROCE SALVE.» 
{英訳}
     Then say the Franks: "He has great vassalage,
1670 With the Archbishop, surely the Cross is safe." 

4. オリヴィエ Olivier[仏], OLIVER[原典] (* 英語圏ではオリヴァー Oliver[英] という。)
ロランの親友で、シャルルの十人臣将ドゥーズペール*douzeperes[仏]のひとり。ロランを勇将とするならば、オリヴィエは智将である。
妹オード*Aude[仏], ALDE[原典]は、ロランの婚約者いいなずけ。その家系については、以下参照

オリヴィエの家系

 武勲詩『ヴィエンヌのジェラール』*Gérard de Vienne[仏]; Girart de Vienne(Viane)[古仏]によればオリヴィエの血縁関係は、ここに示す家系譜のとおりである。

 オリヴィエの父方の祖父は、モングラーヌのガラン*Garan de Monglane[仏]、オリヴィエの父は、ルニエ(「レニエ公」)*Rénier/Renier de Gennes[仏]という。

 オリヴィエの伯叔父ジラール(「ジェラール」*Gérard/Girart de Vienne[仏]は、婚約者をシャルル大王に横取りされたいわくからヴィエンヌ*Vienne[仏],Viane[古仏](→地名解説)に封ぜられるが、しこりがのこって、やがて紛糾が起こり、オリヴィエを含むこの一家が、いっときシャルルの包囲攻撃を受けるという憂き目をあじわう。
(*詳しい顛末は→作品あらすじ)。

 ジェラール・ド・ヴィエンヌの素材となったジェラールの名の→人物は、八世紀のシャルルの子ルイ敬虔王やシャルル禿頭王の時代に実在した。(* →十二臣将ジラール・ド・ルシーヨン)。

【オリヴィエの家系譜】

  ガラン・ド・モングラーヌ
Garin de Monglane
  
   
――――――――――――――――――――――――――
|             |            |         |
ジラール・ド・ヴィエンヌ
Girart de Vienne
エルノー・ド・ボーランド
Hernaud de Beaulande 
ミロン・ド・プイユ
Milon de Pouille
レニエ・ド・ジャンヌ
Renier de Gennes
  
   ロラン?
Roland
オリヴィエ
Olivier

 オリヴィエの祖父の武勲詩『モングラーヌのガランガラン・ド・モングラーヌ』は、その名をとって→三大作品群シークルのひとつとなっており、ひとつの大系をなしている。

 ジラールの兄弟についても(ミロン以外は)それぞれ独自の武勲詩が残存する。
 オリヴィエのおじミロン・ド・プイユ*Milon de Pouille[仏](南イタリアのアプリア州*Apulia, Puglia[伊], Milon de Pouille[仏])とはいかなる人物だろう。ロランの父ミロン*Milon de Anglers[仏]にしても、祖父ベルナルドの代はアプリア州にごく近いキアロモンテ市が出身地なので、あるいは作者がオリヴィエとロランを従兄弟同士として血縁づけようとしたのかもしれない。    

剣オートクレール..
第107節1363行-
{拙訳}

 (「)どこにやった、オートクレールと名づく、おぬしの剣は?
   握り柄は黄金、柄頭は水晶クリスタルのあれは」

{岩波訳}1363行の註:
語意は「高く清らか」、「いとも清き」。この剣については 『ヴィエンヌのジェラール』(→作品紹介)に詳しい。(ゴーチエ)
{原典}  
     («)U EST VOSTRE ESPEE, KI HALTECLERE AD NUM? 
          D OR EST LI HELZ E DE CRISTAL LI PUNZ.»
{英訳} 
     (")Where is your sword, that Halteclere I knew?
     Golden its hilt, whereon a crystal grew."
第147節1952行-
{拙訳}
     オリヴィエは、死のまぢかを悟り、
     茶褐色に施した鋼アセ・フュ・ブランのそのオートクレールを取りて、
     マルガニスの、その尖頭の金兜をめがけ討てば、
1955 花飾りも宝石も、地に撒き散れんばかりなり。

岩波訳だと「焼刃ぎらりと光る」

{原典}    
      OLIVER SENT,QUE A MORT EST FERUT,
      TIENT HALTECLERE,DUNT LI ACER FUT BRUNS. 
      FIERT MARGANICES SUR L ELME A OR AGUT,
      E FLURS E PIERRES EN ACRAVENTET JUS,
{英訳} 
     Oliver feels that he to die is bound,
     Holds Halteclere, whose steel is rough and brown,
     Strikes the alcaliph on his helm's golden mount;
1955 Flowers and stones fall clattering to the ground,

5. シャルル Charles[仏], CARLES[原典]
フランス王。フランクのカール大帝(シャルルマーニュ)。その妹の息子がロラン伯であり、王妹の再婚の相手がガヌロン。
その王都はエクス*Aix-la-Chapelle[仏], Aachen[独], AIS[原典]であるが、 一箇所(第209節:2910行)ではラン*Laon[仏], LOUM,LOUN[原典]であると言っている(→解説)。
シャルルの剣とその聖遺物..
第184節2496行-
{拙訳}

     帝王は、野辺に臥しつ、
     その勇なる枕頭ちんとうの元に、豪槍を置く。
     かような夜に、丸腰になるはを好まず、
     サフラン拵えの白き鎖鎧をもまといたり。
2500 金で玉縁ジュメせし兜の緒を締め、
     無比[の剣]ジョワイユーズをく。
     そは、日に三十度みそたび、映え変わる[剣]なり。
     我らによく膾炙せり、かの語られし槍、
     十字架にあらす主を傷つけたまいし槍なるが、
2505 神の恩寵のたまもの、シャルルはその切尖きっさきを有すれば、
     これを金の剣柄に、込めらるる。
     しかるに、この栄誉、この恵みにちなんでこそ、
     「喜ばしきジョワイユーズ」と名づけられたり。
     フランスの勇士らよ、決して忘るるまいぞ。
2510 「モンジョワ!」と叫ぶわれらが勝鬨/旗印も、
       [この名より取れるものなり]。
     されば、いかな民族とて、彼の者らにかなわじ。
2499行。岩波本では、「サフル飾り」と訳す(→用語)。
2502行。岩波本では、きんもて宝石嵌めし兜」と訳す。
{原典}
      LI EMPERERE S EST CULCET EN UN PRET,
      SUN GRANT ESPIET MET A SUN CHEF LI BER,
      ICELE NOIT NE SE VOLT IL DESARMER,
      SI AD VESTUT SUN BLANC OSBERC SAFFRET
      LACIET SUN ELME,KI EST A OR GEMMET,
      CEINTE JOIUSE, UNCHES NE FUT SA PER,
      KI CASCUN JUR MUET XXX CLARTEZ.
      ASEZ SAVUM DE LA LANCE PARLER,
      DUNT NOSTRE SIRE FUT EN LA CRUIZ NASFRET. 
      CARLES EN AD LA MURE MERCIT DEU,
      EN L ORET PUNT L AD FAITE MANUVRER, 
      PUR CESTE HONUR E PUR CESTE BONTET
      LI NUMS JOIUSE L ESPEE FUT DUNET.
      BARUNS FRANCEIS NEL DEIVENT UBLIER,
      ENSEIGNE EN UNT DE MUNJOIE CRIER.
      PUR CO NES POET NULE GENT CUNTRESTER.

{英訳}
     That Emperour is lying in a mead;
     By's head, so brave, he's placed his mighty spear;
     On such a night unarmed he will not be.
     He's donned his white hauberk, with broidery,
2500 Has laced his helm, jewelled with golden beads,
     Girt on Joiuse, there never was its peer,
     Whereon each day thirty fresh hues appear.
     All of us know that lance, and well may speak
     Whereby Our Lord was wounded on the Tree:
2505 Charles, by God's grace, possessed its point of steel!
     His golden hilt he enshrined it underneath.
     By that honour and by that sanctity
     The name Joiuse was for that sword decreed.
     Barons of France may not forgetful be
2510 Whence comes the ensign "Monjoie," they cry at need;
     Wherefore no race against them can succeed.
シャルルの剣・盾・槍と軍馬..
第216節2987行-
{拙訳}
     皇帝はさきがけて武具を纏う、
     素早くに鱗鎧ブルニに身をくるみ、
     兜の緒を締め、剣ジョワイユーズをく。
2990 その剣光は、太陽にかざしてもなお褪せず、
     首からはビテルヌの盾をぶらさげ、
     矛を持ち、長柄をりゅうと振り回し、
     その名馬タンサンドールにうち跨る。
     —そは、マルソンヌ*Marsonne?[仏]、Marsune[原典]を下った渡瀬にて、
2995 ネルボンヌ*Narbonne?[仏]、NERBUNE[原典]のマルパランを振り落とし、
       倒して奪いし[馬]なり—。
     帝は手綱をゆるめ、各足で拍車をかける、
     駆けるうしろに十万勢ひきつれて、
     神の御名とローマの使徒にかけて祈願す。
2988行。岩波訳は「板金鎧」(→用語)
2992行。この行は、英訳が「ブランドゥーンで作られた」と、おそらく誤訳なので、 岩波の訳をそのまま使った。
{原典}
      LI EMPERERES TUZ PREMEREINS S ADUBET,
      ISNELEMENT AD VESTUE SA BRUNIE,
      LACET SUN HELME, SI AD CEINTE JOIUSE
      KI PUR SOLEILL SA CLARTET NEN ESCUNSET,
      PENT A SUN COL UN ESCUT DE BITERNE,
      TIENT SUN ESPIET, SIN FAIT BRANDIR LA HANSTE, 
      EN TENCENDUR, SUN BON CHEVAL, PUIS MUNTET
      - IL LE CUNQUIST ES GUEZ DESUZ MARSUNE,
      SIN GETAT MORT MALPALIN DE NERBONE-
      LASCHET LA RESNE, MULT SUVENT L ESPERONET, FAIT SUN ESLAIS, 
      VEANT CENT MIL HUMES, AOI. 
      RECLEIMET DEU E L APOSTLE DE ROME.

{英訳}
     First before all was armed that Emperour,
     Nimbly enough his iron sark indued,
     Laced up his helm, girt on his sword Joiuse,
2990 Outshone the sun that dazzling light it threw,
     Hung from his neck a shield, was of Girunde,
     And took his spear, was fashioned at Blandune.
     On his good horse then mounted, Tencendur,
     Which he had won at th'ford below Marsune
2995 When he flung dead Malpalin of Nerbune,
     Let go the reins, spurred him with either foot;
     Five score thousand behind him as he flew,
     Calling on God and the Apostle of Roum.


6. フランス勢の軍旗
 特別に項をもうけて軍旗について考証することにした。
シャルルの軍旗..
第226節:3093-
{岩波訳}
     .. 彼等と共にシャルルマーニュあり。
     アンジューのジョフロワ、緋錦の御旗オリフラムを捧ぐ。
     御旗みはたはもと、聖ペテロ寺にありて、その名をローマ旗といいたり。
3095 されどこのとき、名をモンジョワと変えてあり。AOI

{拙訳}
     ..彼等と共にシャルルマーニュは往く。
     アンジューのジョフロワの担う錦旗オリフラム、
     かつて聖ペテロ聖堂にありて、ローマ風の名前をもてども、
3095 モンジョワの名に改められたり。AOI。
* →岩波訳の3094行の巻末註

{原典}
      ..OD ELS EST CARLEMAGNE. 
      GEFREID D ANJOU PORTET L ORIEFLAMBE,
      SEINT PIERE FUT, SI AVEIT NUM ROMAINE.
      MAIS DE MUNJOIE ILOEC OUT PRIS ESCHANGE. AOI.

{英訳}
     ..With them goes Charlemagne.
     Gefreid d'Anjou carries that oriflamme;
     Saint Peter's  twas, and bare the name Roman,
3095 But on that day Monjoie, by change, it gat.
                         AOI.

* 検証1:オリフラムの史実上の由来(シャルルの軍旗は青かったのか?)

疑問:オリフラムという語が「金の炎」の意味だとしても、それが確実に「赤い」*rouge, vermeille[仏]とは原文では明言されていません。
 確かに、カペー朝の時代にくだれば赤旗のオリフラムだったことは疑いありませんが、しかしそれはシャルルマーニュの8世紀よりも三百年も後世のことで、ちょうどこの『ロランの歌』が羊皮紙に書き写された1110年頃(オックスフォード本の成立)と前後するのです。 史実上のフランスの王旗・軍旗については:

  •   カロリング王朝の軍旗は、もと聖マルタン大修道院の院長アベをつとめたウード公*Eudesが 888年に即位し、トゥールの聖マルタン教会の旗(無地の青旗であった)を用いたのをはじめとする。
  •  王旗の《空色アジュールの地に百合紋フルール・ド・リスの旗》は、ジャンヌ・ダルクの白地の百合紋フルール・ド・リスにとってかわられる14世紀まで使われた。
  •  そして軍旗の聖マルタンの青旗が、聖ドニの赤旗のオリフラム におきかえられたのは、カペー王朝のルイ六世(肥満王)(在位 1108-37年)の治世に なってからである。
  •  炎のように真っ赤な薄絹サンダル*sendalに、金色の焔や星屑がちらばめ られた意匠と一般に思われているきらいがあるが、確たることは言えない。歴代の旗持ちは、ヴェクサン候* Comte de Vexin〔ヴェクサン地方は、ルーアンとパリの中間くらいに位置した、セーヌ右岸の旧国〕

  •                                                             −出典:Catholic Encyclopedia のOriflammeの項より抜粋
 また、岩波の973行の註に、
フランス勢の勝鬨「モンジョワ!」は、「モンジョワ、サン・ドニ!」とも叫ばれ

とありますが、聖ドニの名を唱えるようになったのも、旗の歴史に照らせば、もちろんカペー王朝以降のことです。英国勢は「モンジョワ、ノートルダム」ないし「モンジョワ、セント・ジョージ」などと叫んだそうです。(同上資料より)

*検証2:ローマ市のモザイクの史実(シャルルの軍旗は緑色だったのか?)

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7. マルシルMarsil, Marsilion[仏], MARSILIE, MARSILIUN[原典]
 スペインに牙城をきずく、サラゴッサ国(*岩波訳は 「サラゴス国」)異教徒サラセン王。シャルルに恭順を示すふりをしながら、逆臣ガヌロンと結託して、ロンスヴォーに罠を張ってロランを陥れる。 戦場ではロランに右手を切り落とされて退却。総督バリガンに援軍を頼むが、これがシャルルに討たれたと聞くやいなや、悲憤のあまり頓死する。
黄金の羽つきの投槍..
第34節:438-
{拙訳}

     マルシル王は、大いに怖れをなし、
     金羽でいだ投槍アルジエをつかむや、
440 ガヌロンめがけ、今にも投げつけんとす。
           すんでのところ回りの者、狙いをそらせり。
{原典}
      LI REIS MARSILIES EN FUT MULT ESFREED,
      UN ALGIER TINT, KI D OR FUT ENPENET,
      FERIR L EN VOLT, SE N EN FUST DESTURNET, AOI.
{英訳}
     King Marsilies was very sore afraid,
     Snatching a dart, with golden feathers gay,
440  He made to strike: they turned aside his aim.
                         AOI.
サラゴス勢(マルシル王配下のサラセン人)のいでたち..
 
第80節:994-
{拙訳}

     異教徒共が着こなすは、サラセン式の鎖鎧オーベルク。
995  大半は、三重がさねのつくりなり。
     サラゴッサ製の極上の兜を紐結び、
     ヴィエンヌ産のはがねの剣を佩く。
     楯も見事なり。ヴァレンシア製のエピエも持つ。
     吹き流しは、白も青も赤もあり。
977行―ヴィエンヌ産の鋼とは?→岩波の巻末註→拙註
第81節:1021-
     スペインの方より..
     なんたる白き鎖鎧オーベルク、なんとも煌めく兜、..
1022行―「白き〜」=「磨がかれてまばゆい」の意味?→岩波の巻末註→拙註
82節:1030-
     こぞって集いしサラセン衆。
     きら光りするその兜には、黄金の玉縁あり 。
     また、あの槍も、あのサフロン拵えある鎖鎧も、
     また矛も、その穂先につけし吹流しも見ゆる。	
1031行―黄金の玉縁。これを岩波訳は、きんもて嵌めたる宝石の飾りあり」としている。シャルルの兜の形容(↑2502行)も同じ表現が使われている。
1032行―サフロン拵え(→用語)。岩波訳は「サフル飾り」としている。

{原典}
      PAIEN S ADUBENT DES OSBERCS SARAZINEIS,      
     TUIT LI PLUSUR EN SUNT DUBLEZ EN TREIS,
      LACENT LOR ELMES MULT BONS SARRAGUZEIS,
      CEIGNENT ESPEES DE L ACER VIANEIS,
      ESCUZ UNT GENZ ESPIEZ VALENTINEIS
      E GUNFANUNS BLANCS E BLOIS E VERMEILZ,..
             :
  TANZ BLANCS OSBERCS TANZ ELMES FLAMBIUS,  
             : 
      E SARRAZINS,KI TANT SUNT ASEMBLEZ.
      LUISENT CIL ELME,KI AD OR SUNT GEMMEZ,
      E CIL ESCUZ E CIL OSBERCS SAFREZ
      E CIL ESPIEZ CIL GUNFANUN FERMEZ,


{英訳}
      Ready they make hauberks Sarrazinese,
     That folded are, the greater part, in three;
     And they lace on good helms Sarragucese;
     Gird on their swords of tried steel Viennese;
     Fine shields they have, and spears Valentinese,
     And white, blue, red, their ensigns take the breeze,
           :
  What hauberks bright, what helmets these that gleam?
    :
     And Sarrazins, so many gathered.
     Their helmets gleam, with gold are jewelled,
     Also their shields, their hauberks orfreyed,
     Also their swords, ensigns on spears fixed.

8. バリガン Baligan[仏], BALIGANT[原典]
バビロニアの総督アミラル。バビロニアとはカイロだとも解釈されるが、イスラム教の総督府である。つまりバリガンという人物は、サラセン勢力圏の全土の総帥であるわけだ。(→サラセン位階の表 )。
マルシル王の援軍要請に応じて乗り込んでくるが、戦死をとげる。
バリガン総督の武具一式..
第229節:3144行-
{拙訳}

3140 総督アミラルは、後には抑えがたし。
     サフロン拵えの鱗鎧ブルニをつけ、
     黄金の玉縁ある兜の緒を締め、
     そして左腰に剣ひっさげる。
     高慢たけだけしくも、その剣名をもとめるにあたり
3145 シャルルの[剣名]の語られしを[聞くにおよんで、]
     [己の剣もプレシユーズと名づけたり。]
     その名は、戦地にむかう異教徒勢の勝鬨の声となるなり。
     麾下の騎士どもらに、この掛け声を挙げよと命ず。
3150 首に吊り下げ、自ら負う大盾には、
     黄金の鋲と水晶の縁取りあり。
     その吊り帯ギージュは上質の絹織りで紡がれたもの。
     さするにマルテと名づくエピエを取れば、
     その柄の太きこと、さながら棍棒のごとく、
     その穂先のみをとっても、騾馬の荷[の重量]に値す。
3155 バリガン、その軍馬デートリエに跨ぎ乗る。
3141行-:サフロン拵え、鱗鎧ブルニ、 黄金の玉縁などの用語は、シャルルの節ですでに解説した。(→詳細)
3152行-:岩波訳は「吊り緒は、車模様の上等の絹布にて作る。」 (→説明)
{原典}
3140 LI AMIRALZ NE SE VOELT DEMURER,
      VEST UNE BRONIE DUNT LI PAN SUNT SAFFRET,  
      LACET SUN HELME KI AD OR EST GEMMET,
      PUIS CEINT S ESPEE AL SENESTRE COSTET.
      PAR SUN ORGOILL LI AD UN NUM TRUVET,
3145 PUR LA CARLUN DUNT IL OIT PARLER
      . . . . . . . . . . . . . . . . . .
      CO ERT S ENSEIGNE EN BATAILLE CAMPEL,
      SES CEVALERS EN AD FAIT ESCRIER.
      PENT A SUN COL UN SOEN GRANT ESCUT LET,
3150 D OR EST LA BUCLE E DE CRISTAL LISTET,
      LA GUIGE EN EST D UN BON PALIE ROET.
      TIENT SUN ESPIET, SI L APELET MALTET,
      LA HANSTE GROSSE CUME UNS TINELS,
3155 DE SUL LE FER FUST UNS MULEZ TRUSSET.
      EN SUN DESTRER BALIGANT EST MUNTET,

{英訳}
3140 Their admiral will stay no longer then;
     Puts on a sark, embroidered in the hems,
     Laces his helm, that is with gold begemmed;
     After, his sword on his left side he's set,
     Out of his pride a name for it he's spelt
3145 Like to Carlun's, as he has heard it said,
     So Preciuse he bad his own be clept;
     Twas their ensign when they to battle went,
     His chevaliers'; he gave that cry to them.
3150 His own broad shield he hangs upon his neck,
     (Round its gold boss a band of crystal went,
     The strap of it was a good silken web;)
     He grasps his spear, the which he calls Maltet; --
     So great its shaft as is a stout cudgel,
     Beneath its steel alone, a mule had bent;
3155 On his charger is Baligant mounted,
バリガンの軍馬
第202節:2813-
{拙訳}
     敵方あまねく統べる総督アミラルは、
     股肱の臣みぎうでのひとりジュマルファンを呼びつけ、
2815 「そちに、全軍の指揮をまかす」と言う。
     ついでは、手持ちの黒鹿毛ブラン軍馬デートリエに跨る。
{原典}
      LI AMIRALZ, KI TRESTUZ LES ESMUT,
      SIN APELET GEMALFIN, UN SUN DRUT,
      [JO TE CUMANT DE TUTE MES OZ L AUN[.
      PUIS EST MUNTE EN UN SUN DESTRER BRUN,
{英訳}
     Their admiral, by whom they all were ruled,
     Called up to him Gemalfin, whom he knew:
     "I give command of all my hosts to you."
     On a brown horse mounted, as he was used,

軍馬の一覧 
《バリガンの黒鹿毛》destrer brun (de Baligant) [原典], Baligant's brown horse [英]
Baligant バリガン総督総督アミラルのバリガンの黒鹿毛の軍馬(* 第202節:2816行。岩波訳では「鹿毛」)。名も知れないが、豪矛マルテを担い、なお50ピエ(15メートル)もの濠を飛び越すとは、並ならぬ馬。 (*『ロランの歌』第292節:3152-4, 3265-7行)
《マルガニスの栗毛》 un ceval sor de Marganices [原典]; Alcaliph's sorrel [英]
Marganices マルガニス 異教徒勢の教皇アルガリフであるマルガニスが跨る栗毛ソレルの馬。岩波訳では柑子こうじ栗毛」 (*『ロランの歌』第146節:1943行)
ヴァイヤン Vaillant [仏]
Mitaine ミテーヌ 馬名=「勇気ある」?
ミテーヌの乗った馬。ミテーヌはシャルルの代子フィユール*filleule[仏] goddaughter[英]](名づけ娘)のそのまた娘で、「恐怖の要塞」をもとめての探訪にでかけ、それを果たす。ロランの従士にさせてもらい、この馬にのってスペインまで従うが、ロンスヴォーで戦死。
(*『クロックミテーヌ』第3部)
ヴェイヤンティフ Veillantif[原典,仏]; Vegliantino[伊]
Roland ロラン 馬名=「古老」?
ロランの軍馬。イタリア版ではオルランドの馬は ヴェリアンティーノ
(*『ロランの歌』1155行)
グラミモン Gramimond[仏], GRAMIMUND[原典]
Valdabron ヴァルダブロン 逆臣ガヌロンに一振りの剣とマンゴン貨幣千枚を贈った異教徒ヴァルダブロンの馬。鷹よりも速いという。 (*『ロランの歌』第117節:(1571)行)
ゲニョン Gaignon[仏], GAIGNUN[原典]
Marsileマルシル スペインのサラゴッサを牙城とする異教徒の王マルシルの馬。 (*『ロランの歌』初出:第143節:1890行。 )
ソーペルデュ Saut-Perdut[仏], SALTPERDUT[原典]
Malquiant マルクイアン 馬名=「跳んで失う」?
アフリカよりきたる異教徒マルクイアン(マルクー王の息子)の馬で、「競いて走りえるものなし」(これと競争でかなうものなし)と言われる。
(*『ロランの歌』第119節:1554行)
ソレル Sorel[E, AF]
Gerins ジェラン 馬名:栗毛ソレルは、 栃栗毛チェスナッツよりも薄い赤茶色の馬。
臣将ジェラン伯の馬。
(*『ロランの歌』第109節:1379行)
タシュブラン Tachebrun
Ganelonガヌロン 馬名 =「茶褐色のぶち」?「斑点/星額の黒鹿毛」?
逆臣ガヌロンの馬
(*『ロランの歌』第28節:347行)

?
タンサンドール Tencendur(Tencendor)
Charlemagneシャルル大帝 馬名:「全身が灰白色」?
シャルルマーニュの馬
(*『ロランの歌』第216節: 2993行)
パスセール Passe-Cerf[E], PASSECERF[AF]
Gerers ジェリエ 馬名:「鹿を追い抜く」?
ジェリエ(ジェラン伯の友、12臣将)の馬。
(*『ロランの歌』第109節:1380行)
バルバムッシュ Barbamusche[F,AF]
Climborinsクルムボラン サラゴッサンのサラセン人クルムボラン(クリモラン)の馬。 (*『ロランの歌』第115節:1491行)

?
フェラン・デスパーニュ Ferrant d'Espagne
Olivierオリヴィエ 馬名は「スペインで蹄鉄を打たれた」、あるいは「スペインの鈍鉄にびてつ色」の意なので おそらく鼠毛ねずげの馬ではないかと思われる。 巨躯の異教徒フィエーラバスの軍馬だったが、オリヴィエと一騎打ちしたとき、 相手の乗馬を斬り殺してしまったことを詫びて、オリヴィエに贈ると約した。 (*カクストン訳『チャールズ大帝』第2巻第2部第9章 *しかし、オリバーがもともと乗っていた馬もほぼ同名(第5章))
マルモワール Marmore[E], MARMORIE[AF]
Grandonesグランドワヌ 馬名は「大理石模様」の意なので、「ブリンドル(墨流し)」の毛の馬だろう。 異教徒グランドワヌ(カッパドキア王カプエルの息子)の馬。飛ぶ鳥よりも速いという。 (*『ロランの歌』第121節:1571行)

サラセン人特有の称号(官位・役職)の表

和訳 O本の原典 現代語 語源/定義
{拙訳}
    教皇アルガリフ
{岩波訳}
    アルガリフ
マルシルの叔父
マルガニス*MARGANICES
(第36節453行、第38節493行、第144節1914行)
ALGALIFE caliph, calif 【(1393年) ¬ (古仏) caliphe ¬ (アラブ語) khali¯fah 後継者←khálafa 継ぐ】
カリフ。ハーリファ。《予言者モハメッドの後継者の意でイスラム教徒 の政治的・精神的首長、教主》
(―『研究社英和辞典』)。
(+)
* 「アルガリフ(教皇)」とは大そう偉そうな称号だが、歴史上は、一国を築いた地方勢力のなかには、まるで全イスラームの小坂のように「カリフ(教皇)」を僭称した国王もいたのである。
 シャルルの時代は、アッバース朝(在バグダード)にカリフ王朝があった。これが正統カリフとみなされてきた。しかし、アッバース朝が衰えると、新興勢力であるコルドバ政権(929年)が「カリフ(教皇)」を僭称し、ファティマ朝(創立909年エジプト征服969年)もやはり対立して「カリフ」を名乗るようになったのだ。
* 2代オマール以降、カリフの正式名は「Amir al-Mu'minin」(「信者の指揮者」)であった⇒次項目参照。

総督----- バリガン総督
(190節2614行)
AMIRAL émir/emir 【(1625年) ¬ (アラブ語) ami¯r 指揮官 ←amara 指揮する ⇒ amir, admiral】

1. 指揮者、指揮官、アッバース朝中期以降の地方政権の君主の称号、 小王朝の王子や高官の称号。
2. 首長《クウェート・バレーン・カタール・およびアラ
ブ首長国連邦の君主》
3. ((古))モハメッドの子孫の尊称。
(―『研究社英和辞典』)
都督アミラフル ガラーフGALAFES
(127節1665行)
AMIRAFLE, AMIRAL émir/emir
州長アルマスール
(第69節849行)
モリアーヌの州長
(74節:909行)
ALMAÇUR, almaçour 【< (古)仏 almaçor, -ur, aumaçor / aumansour ¬ (あるいは間接的) (アラブ語) al-mançûr (天国の)加護を受ける、尊い←naçara 護る】
サラセン人の大公(grandee)または貴人(magnifico)。古期フランス語の中世物語
に頻出する位階/称号だが、アラビア語では同じようにはもちいられない。―*『オクスフォード英辞典(OED)』訳
隊長コントール
(第69節850行)
----- CUNTUR comte/count[?] 隊長コントールの該当語は見つからず、調査中です。

*註1)「アルガリフ」は、宰相の称号と解釈するのが妥当と思う。英訳は"the alcalyph"。
*註2)岩波訳では総督と都督と分けて訳するが、原語はいずれもおなじ「アミラル」である。
*註3)岩波訳は"LES FILZ AS CUNTURS"を「隊長の息」としていますが、英訳では、"cadets nobly born"(高貴な生まれの青年将校)としています。ここは「諸伯らの子息」がよろしいのでは。


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コンラット作『ローラントのリート
Rolandslied (der Pfaffe Konrad)

バイエルンの僧コンラット*Pfaffe Konrad によるドイツ訳 (1170年頃成立)。
次に引用するのは、ローラントが愛剣ドゥレンダルトに語りかける一場面で、アングロ・フランス語の『ロランの歌』
とは、デュランダルの柄頭に封じ込めた4つの聖遺物が多少ことなる:

『ローラントのリート
6858行-
{和訳}
「この世において お前の如き者が鍛えられたためし  いまだかつてなく これよりもけっしてなかろうぞ。 そは まさに 戦場において 証明されたり。 お前はモリアナ〔モリエーヌ〕の谷にて  天使より わが殿にもたらされ  そは かたじけなくも  この己の名を 覚えとどめてくださり この 私めローラント カルル帝王の〔家臣〕 に お前 ドゥレンダルトを かせ 寡婦やもめ孤児みなしごらの  守護たらん と仰せつかった。 なんたる盲目めしいさか! なんとも 悔やまれる。 天にまします 主よ お許しあれ  お前を むげもなく 叩きつけたことを。 帝は お前のなかに 大いなる力の 封ぜらることを 所望なされた: 聖ペテロの血と、聖ブラシウスの神通力、 聖ディオニシウス〔ドニ〕の毛髪と、 聖母マリアの衣片を。

*最大の違いは、フランス版『ロランの歌』では聖バシリウス*Basilius[羅] Basil [仏](330~379)だったのが、ここでは聖ブラシウス*Blasius [羅] Blaise [仏](4世紀末に殉教)にすり変わっていることである。

{原典-中世ドイツ語}* 入手元は、MHDBDB のデータベース
  
     iane wart din geliche                                        
     nie gesmidet uf dirre erde,                  
6860 noch newirt ouh hinne fur niemir mere:   
     daz bewartestu wol an disem wal.     
     ze Moriana in dem tal   
     der engel dich mine herren brachte.   
     gnadiclichen er min gedachte              
6865 benamen er mich nante:   
     er hiez mir Rovlante                           
     Karln den kaiser   
     zebeschirmen witewen unt waisen   
     dich Durndarten umbe binten.            
6870 daz ich ie sa erplinde!                     
     daz riwet mich uil sere,   
     nu uergip du mir, himilischer herre,   
     daz ich iz ungezogenlichen sluoc.  
     mines herren sent Petres bluot,   
6875 diu herschaft sent Plasien,   
     des hares mines herren sent Dionisien,   
     des gewates miner frouwen sent Marien,   
     der kaiser newolte nie beliben   
     unz in dir uersigelet wart                      
6880 diu uil groze herschaft. 


{英訳}

                :
   St. Peter's blood, relics of St. Blasius, 
    some hair of St. Denys, 
   and a piece of cloth from St. Mary's garment. 

テクスト入手情報
* J.W.Thomas 氏の英訳の抜粋は、Vika Zafrin 氏さんの
RolandHTサイト内の、 "Roland speaks to his sword" の章 (あるいは、ブラウザ対応問題があれば旧サーバの)にあります。
* 中世ドイツ語のテクストは、MHDBDBより入手しました。


『カルル大王のサガ』
Karlamagnús saga

 北欧の散文作品で、13世紀頃成立。 シャルルが妹と通じてロランが生まれたことにも触れています。 名剣デュランダルの由来に詳しいのは、このサガだけだといいます。 また、デュランダルの柄にこめらる聖遺物も3つで、内容もまた違います。

『カルル大王のサガ』 ロランの家系譜

(資料入手サイト→Rollant's Lineage 対応問題あらば→旧サーバー)

{拙訳}

カルル大王*King Karlamagnús は、 エイスエクス・ラ・シャペル*Eiss [原典], Aix-la-Chapelle[仏], Aachen[独]に赴きになられ、そこに妹君のギレムジゼル*Gilem [原典], Gisele[仏]がおいでになるのを見てとられた。 そして妹どのを御寝所にお導きになられ、添いしておなりになったが、愛情が芽生え、 同衾されておしまいになったのである。 後となり、教会にまいられ、[聖]エギディウスジル*Egidius [原典], St.-Gilles[仏]に、この事をのぞく、あらいざらいの罪を懺悔なされた。エギディウスは、王を祝福し、聖祭ミサにゆかれた。 読唱ミサをとりおこなったそのとき、神の天使ガブリエルが降臨し、聖餐皿パテンの上に、書状をおかれた。そこには、カルル大王がすべての罪を告白されておらない旨が記されていた。 「王は、妹君と同衾されたもうた。されば、お方はローラント*Rollant [原典], Roland[仏]という名の子をお産みになられる。王は、妹御をアングレール*Angler [原典], Anglerie[仏・旧称], Angria[伊]のミロンに嫁がせるだろう。閨を共にされてから七ヶ月(異本では十二ヵ月)を経て、ご出産あろう。その子は、王の子であり甥であると知れ。大切に育てるべし。のちにかならずや子のこの扶けが要るようになるゆえ」

[...] [カルル大王]は懺悔され、書状の勅した通りにおこなった:妹君をミロンに娶らせ、これをブレタニアブルターニュ*Brettania [原典], Bretagne[仏]公に封ぜられた。御子は、七ヶ月してお生まれになった。

カルル大王は、ナムルンネーム公*Namlun [原典], Nayme, Naimes[仏], Namo[伊]とギリア*Gilia [原典]を遣わし、稚児をエイスエクス*Eiss [原典], Aix[仏], Aachen[独]]の教会に連れてこさせた。修道院長リゲルレジェ?*Ligger [原典], Léger?[仏], Ligerius?[羅]]が洗礼をほどこし、ロラントと名づけた。そして何人かの聖堂参事会会員カノンの手の元で育てることとし、名付け親のヴァリンヴァラン?*Varin [原典], Varinus?[羅]]院長に、くれぐれも良きにお守りになられよ、読みの手習いをさせよ、と指示した。院長は、四人の乳母めのとをこの子にあてがった。

少年が七歳になったとき、院長はロラントを連れてカルル大王にお目通りに伺った。王は、その長身で美少年なほどをご覧になり、大いに満悦された。ローラントにちこう参れと呼び寄せ、「余は誰か存じておるか?」と言った。

「存じあげております、陛下」と少年は答えた。「私の伯父御どのにござります」

カルル大王はお笑いになられ、ドレイア*Dreia [原典]学寮長プロヴォストとヌマイアのゲイラルドジェラール?*Geirard of Numaia [原典], Girart/Gérard?[仏] に、御子の面倒をみろと仰せつけになられた。ナムルン公は、少年を度々、館につれてくるようにな、と言った。「なぜならば、わしこそがその師傅もりやくなのじゃから」。

カルル大王が名剣を入手したいきさつ・試し斬り 

(資料入手サイト→Karl's Swords 対応問題あらば→旧サーバー。)

{拙訳}

...イヴィンのマラキン*Malakin son of Ivinが、 [カルルの城館]を訪れ、 かれこれ十四年も監獄にいる兄(弟)アブラハム*Abrahamを、なにとぞ、ご釈放ねがえますまいかと、カルル大王*King Karlamagnús に乞うた。 「さすれば、ここに最上の剣を三振り、持参してつかまつりました。イギリスの鍛冶師ガラント*Galantが拵えしもので、七年間しどおしで炉にくべられたそうにござります。ファーベル王*King Faberが、ブザン金貨七〇〇枚の担保 にと、私めに預けしものにて、優れた神聖なる剣にござりますれば―わが兄(弟)の釈放をぜひともお願いいたしまする」

[カルルはアブラハムの釈放を命じ、三本の剣を手に入れる] 
(..中略..)

カルル大王は帰宅するや否や、ナムルンネーム公*Namlun [原典], Nayme, Naimes[仏], Namo[伊]を呼びつけ、イヴィンの息子マラキンより得た剣を持ってまいれ、と命じた。
王は剣を鞘から抜いて吟味した。良き剣のようである。そして会堂の前にあるはがねの山積みにゆくと、まず一本目の剣をその鋼に手幅ほど斬り込んだ。すると、剣はわずかばかり欠け損じていた。「まっこと、これは良い剣じゃ、」王は言った。 「クルト*Kurtと名づけようぞ」

二本目は手幅ほどか、それよりもややなお斬り込めた。それはアルマツィア*Almaciaと名づくことにし、 王は、異教徒を討つによき剣かな、とのたもうた。そして三本目を斬りつけると、男の足尺の半分以上が千切れとんだ。王はこれを デュルムダリ*Dyrumdaliと名づくべし」として、自らの元に置き寵愛した。
(..中略..)

* 最初の剣が打ち込めた「手幅」、すなわち1ハンド〔仏 1マン*main[仏] 〕は約10cm。また、デュルムダリが打ち込めた、足尺の半分とは、つまり½フィート〔仏 ½ピエ*pied[仏]〕で約15cmとみるべきでしょう。
* クルトは、「短い」という意味。フランス語でやはり「短い」という意味のクールタン*Courtain[仏] にあたる。デーン人オジエの剣。
* 私訳訂正箇所。1) イヴィンの息子マラキン -> イヴィンのマラキン 2) 金貨 -> ブザン金貨 3) 優れた剣 -> 優れた神聖なる剣

カルル大王の夢枕の天使・3つの聖遺物

カルル大王が、自邸に戻ると、教皇から書翰が届いてきた。ロンバルド人*ランゴバルド人, Lombardとブレトンド*Bretlandの国の者たち(*おそらくサクソン人のこと)とのあいだに大戦争がひきこおこされ、ローマ人は、はなはだしい戦禍をこうむっているという。王は、これにたいそう不興のご様子で、参戦する各(王)に勅書をはなちモンタルダール*Montardalに集まるようにと命じ、講和に応じないものは、その顎鬚に誓って縛り首に処すと仰せになった。

喇叭を吹き鳴らさせて、王は馳せた。モンタルダールに着くと、勅を飛ばした者らはことごとく召集に応じていた。 王は、者どもに、命が惜しくば、和平を結べと命じ、教皇にそれぞれの申し分の仲裁を依頼したのである。

次の夜、カルル大王が臥床ベッドに横たわっていると、天使ガブリエルが訪れ、かの剣には貴重なる聖遺物が秘められているのだと明かした。「その中には使徒ペテロの歯と、マグダラのマリアの毛髪と、 ブラシウス司教の血の幾ばくかが、こめられています。その剣は、御親族のローラントにお譲りになりませ、 その者の手にゆだねるのが良きことにござります」

カルル大王は、天使のお告げの通りにいたした。ロラントに剣を与えてそれを佩かせ、首元を 叩いて、「愛()でし甥よ、これよりデュルムダリを取れ。何人よりまさる者よ、それを使え、神が使徒らのため、天国に居場所をお与えになったことをかえりみつつに」。

* 頸を手で打つのは、頸打ちコレー*colée[仏] という騎士叙任式の仕草。

テクスト入手情報
*以上は、V. Zafrin氏の
RolandHTサイトから入手した、各章を和訳したものです。
 原典は今のところ提供できませんが、英訳は、上のリンクでご覧ください。


『フィエラブラ』
Fierabras

異教徒フィエラブラ*Fierabras, Ferragus, Ferraugus, Ferumbras, Vernagu, Ferragut
を題材とした作品は、12世紀の武勲詩にはじまり、さまざまな形態や言語で語りつむがれているので、次の表にその経緯を示す:
種別 題名 年代
フランス武勲詩『フィエラブラ』ch. de geste Fierabras(1170年頃)
ヴァンサン・ド・ボーヴェ著(羅) 『歴史の鑑』Speculum historiale(1250年頃)
オック(南仏)語『アリシャンドルのフィエラブラス』Fierabras d'Alichandre (13世紀)
英語・詩『ローランドとフェルナグ』Roland and Vernagu(1330年頃)
英語・詩『フェルンブラス卿』Sir Ferumbras(1380年頃)
英語・詩『バビロンのスルタン』Sowdone of Babylone(1400年頃)
イタリア語・詩『フィエラブラッチアの歌』Cantare de Fierabraccia(15世紀)
ジャン・バニョン著 散文(仏)散文体『フィエラブラ』(『巨人フィラブラのロマン』)の出版(pic)Fierabras(Roman de Fierabras le géant (prose)(1478年)
カクストン英訳『チャールズ大王の生涯』の出版Lyf of Charles the Grete(1485年)
1478年本の再版『シャルル大王がなした征服とエスパニア』の出版La Conqueste que fit le grand roi Charlemaigne es Espaignes (1486年)
散文・ドイツドイツ訳『フィエラブラス』Fierrabras(1533年)
シューベルト作曲歌劇『フィエラブラス』Fierrabras(1823年)

 フランス語の散文『フィエラブラ(のロマン)』は、ヴァンサン・ド・ボーヴェ*Vincent de Beauvais著『歴史の鑑』(Speculum historiale)と、フランス武勲詩『フィエラブラ』をまとめあげたものという。フランスで出版されてから十年を経ずして、イギリスで出版された英訳が、カクストンの『チャールズ大王の生涯』(Lyf of the Noble and Crysten Prynce, Charles the Grete)である。以下、このカクストン本、第2巻第1部を典拠としてフィエラブラスのあらすじを語る。

 オリヴァー[英]Olyver, オリヴィエ[仏]は、ギャリン*Garyn, ギャラン[仏] の偽名を使い、サラセンの王子で巨躯の 異教徒の王子、フィエラブラス[英]*Fierabras , フィエラブラ[仏]と一騎打ちする。 戦闘のさなか、オリヴァーは愛剣オートクレールを握りそこね、溝に落としてしまう。
 そして、相手の馬に下がっていた剣バプティズム[英]*Fierabras , バプテェーム[仏]を奪って戦い続ける。 オリヴァーに負かされたフィエラブラスは、キリスト教に帰依することを望み、今わの際に、その剣と馬をオリヴィエに献上する。 その少し前のくだりでは、三人の刀鍛冶の兄弟と、彼らが鍛えたつごう九本の有名な剣について触れているが、 次はそこからの引用:

カクストン訳『チャールズ・ザ・グレート』 第2巻第1部第9章 p. 52
{和訳}
 フィエラブラス*Fierabras フィエラブラ[仏]は相応に武装をし終えると、オリヴァー*Olyuer オリヴィエ[仏]にあつく謝辞をのべ、プルウァーランス*Plourance プルランス[仏]という剣を佩いた。 鞍の尻繋しりがいには、さらにバプティズムBaptysme バプテェーム[仏]と グラバム*Grabam グラバム[仏]という、もう二振りの剣を所持していた。いずれも、これにより打ちぼち、両断せざる甲冑はあらぬという、かような造りをほどこされた代物である。
 さすれば、それは、いかなる者がいかにして造りしや?と、お尋ねになられる方々には、さて、ある書物にて発見したとおりを、語ってさしあげよう。
 ときに、ひとりの父御より生を受けた、三人の兄弟がおられた。ひとりはガラウス*Galaus ガロー(ス)[仏]、いまひとりはミュニフィカンズ*Munyfycans ミュニフィカン[仏]、さらに三人目はアグニジアックス*Agnisiax アニィジアックス[仏]4と呼ばれたのでござる。 この三兄弟は、それぞれ三本、つごう九振りの刀剣を鍛えもうした。三男のアグニジアックスが造しは、金の柄頭をもち琺瑯エナメルで よく装飾されしパプティズムなる剣、そしてプルウァーランス、それからグラバム。 ―これらは、すでに申しあげたとおりフィエラブラスが持ちしもの。〔次兄〕ミュニフィカンズは、ローランドの 持ちしデュランダル*Durandal デュランダル[仏]なる別の剣、ソーヴォジーン*Sauuogyne ソヴァジーヌ[仏]なる剣、 そしてデーン人オジエの持つコルタン*Cortan コルタン[仏]5。 して、もうひとり、〔長兄〕のガロースは、フロベルジュ*Floberge フロベルジュ[仏]なる剣、またホールトクレール*Haulteclere オートクレール[仏]、そしてシャルルマーニュが、とりわけて格別に持しジョイウス*Ioyouse ジョワイユーズ[仏]。 さすれば、これら三兄弟は刀鍛冶、同上の刀剣を鍛えしものなり。
4 詩『フィエラブラ』では、これらの名はガラン*Galans、 ミュニフィカン*Munificans、オーリザス *Aurisas である。
5ここも 詩『フィエラブラ』では、ミュニフィカンの作成した剣名はデュランダル*Durendal [仏]、ミュサギーヌ*Musaguine [仏] 、クールタン*Courtain[仏] と見える。
{原典}
Whan Fyerabras was wel armed he thanked moche Olyuer, And after gyrde hys swerde named Plourance. and in the arson of his sadyl he had tweyne other of whom that one was named Baptysme and that other Grabam,2 the whyche swerdes were maad in suche wyse that there was none harnoys but they wold breke and cutte a-sondre. And who that wyl demaunde the manyer how they were made & by whom I wyl saye after that whyche I haue founden by wrytyng. On a tyme there were thre brethern of one fader engendred, of whome that one was named Galaus, that other Munyfycans, & the thyrd was called Agnisiax.4 These iij brethern made ix swerdes, eche of them thre. Agnisiax the thyrd brother maad the swerde named Baptesme, whiche had the pomel of gold and wel enameld, & also Plourance, and after Grabam; whyche thre swerdes Fyerabras had as I haue sayd. Munyficans, that other brother, made another swerde whyche was named Durandal, Whyche Rolland had. that other was called Sauuognye(sic.) and that other Cortan whyche Ogyer the Danoys had5. And Galaus, that other brother, maad the swerd that was named Floberge, another called Haulteclere, and that other Ioyouse, whyche Charlemayn had for a grete specyalte. and these iij brethern aforesayd were smythes & wrought the sayd swerdes.
4 In the verse Fierabras the names appear as Galans, Munificans, and Aurisas
5 The verse Fierabras gives the names of the swords made by Munificans as Durendal, Musaguine, and Courtain
* フロベルジュは、モントーバンのルノー*Renaud de Montaubanの剣 フランベルジュ*Flamberge の変形つづりです。
* ここでは、クールテインはオジエの剣で、ソーヴォジーンの所有者は特定されず、と私は解釈しましたが、
クロックミテーヌ』では、二本ともオジエの剣としています。
*電子テキストの入力ミスか、発行本にもともとあったの誤植かかわかりませんが、 Sauuognye -> Sauuogyne の間違い
と解しました。


『ヴィエンヌのジェラール』 (1190-1217年頃)
Girart de Vienne

【序文:三つの物語群シークル

ベルトラン・ド・バール=シュール=オーブ*Bertrand de Bar-Sur-Aubeが、1190-1217年頃に著した武勲詩。その序文で、ベルトランは、シャルルマーニュの武勲詩 を三つの作品群シークル*cycleに分けている。

 以上の三つの物語群シークル(→用語)という分類方式は、従来、踏襲されてきているが、 『ヴィエンヌのジェラール』(ジラール・ド・ヴィエンヌ)*Girart de Viane[古仏], Gérard de Vienne[仏]は、このうち第3のシークルに分類される。

【あらすじ】

 ジェラール(ジラール)*Girart de Viane[古仏], Gérard de Vienne[仏]は、ガラン・ド・モングラーヌの息子として生まれ、エルノー・ド・ボーランド*Hernaud de Beaulande [古仏]、ミロン・ド・プイユ*Milon de Pouille [古仏](ロランの父?)、レニエ・ド・ジャンヌ*Renier de Gennes[古仏]の三人の兄弟をもっていた。  物語の主な筋書きは、主にジラールとブルゴーニュ女公との紛争にまつわる話である。ジラールに嫁ぐ約束だった女公を、シャルル大王が横取りし、その代償としてヴィエンヌの封土の拝領となった。しかし破談にされたわだかまりはおさまらず、ジラールは罵詈雑言を女公にぶちまける。女公はこれを根にもち、おのれ、このことはきっと復讐してくれようぞ、と胸に誓う。結婚式の初夜のとき、ジラールを騙し、シャルルでなく彼女の足先に接吻させる。何年かたって後、そのことをジラールの息子たちに揶揄まじりに吹聴して見せたのである。その侮辱のしまつは、内戦に発展する。シャルル大王は、ヴィエンヌを包囲し、ジラールは兄弟のルニエとその子オリヴィエの援護を得る。結局、オリヴィエとロランとの一騎打ちで決着をつけることに決まり、休戦となる。ローヌ側の川中島でおこなわれた決闘はすさまじかったが、天使が仲裁に入り、騎士の鑑たる二人はお互いに愛せよ、仲違いせず異教徒の征伐に励めよ、と諭した。シャルルマーニュは、ジラールの臣下の礼を受け入れ、オリヴィエの美しい妹オードは、ロランの婚約者フィァンセとなった。そして異教徒に対して新たなる戦争が布告され、フランスじゅうに檄文が飛ばされた。
(資料:
#Dictionary of Medieval Knights and Chivalry: People, Places, and Events, "Girart de Vienne" p. 294)

【出版テクスト&リンク】

(→リンクの部)を参照。


ヴィクトル・ユゴーの詩『ロランの結婚』
Le Mariage de Roland
ヴィクトル・ユゴー(1802〜1885)の詩作集『諸世紀の伝説(La légende des siècles)』に収録の小品
の一作。上の武勲詩『ヴィエンヌのジェラール』を題材にしたものとみられる。
ロランとオリヴィエが五日間にわたる果し合いをし、オリヴィエが最後に矛を収めて妹オードを娶わせ
る(そして結婚させる!)話。
*岩波文庫版の『ロランの歌』の1720行の註などでもこの作品にふれている。

あらすじ (機械翻訳に頼ったので信頼度は???)

ローヌ河の川中島で、二人の勇者が仕合っている。世にもすさまじい戦いだ。 その者たちの名は、オリヴィエとロラン。 オリヴィエはヴィエンヌのジェラールの息子。 盾はバッコスがこしらえしもの。兜はヒドラの羽交(はがい)のうちにあったもの。 鉤槍(ハルベルト)はソロモンが携えしもの。 その剣(エストック)には、なにやら剣名が刻まれている。
ロランは鉄づくめで鎧い、手にはデュランダルを持つ。 緒戦はロランが一枚上手(うわて)で、その快心の一撃でオリヴィエは兜が脱げ、 刀剣を落としてしまう。しかし、ロランは自分は、かりにもシャルル帝の甥。 無防備の敵を討つようなまねはできない。  「一息いれよう。そこもとは、代わりの剣を持ってくるように侍従をつかわせるがいい。 それに喉もかわいた。わしの分の飲み物もたのむ」
 オリヴァーは船頭にいいつけ、ヴィエンヌから名剣クロザモン Closamont (ある者は オートクレール Haute-Claire とも呼ぶ)を持ってこさせる。  勇者たちは戦いを再開するが、夜がふけるとオリヴィエはどうにも具合が悪い。 立っているのさえ難儀である。ロラン殿、しばし休戦に応じてはくれまいか?
 「なるほど、熱がおありのようだ。剣技で打ち負かされたわけでもあるまい。よろしい、 芝の上で、ぞんぶんと横になりなさるがいい」とロラン。  「いや、それにはおよばぬ。ちとばかし、そこもとの心を試しただけでござる。このまま四日四晩 なりと戦いつづけるもいとわぬ」  じっさい、戦いは、三日たってもけりがつかず、オリヴィエの父ジェラルは気が気でならない。 占術師を呼びつけ、卦を立てさせた。占術師曰く、「ご主人様。お方がたどもは、きりなく 戦い続けますでしょう」
 四日目についに、今度はオリヴィエがロランの剣を奪い取り、河に投じる。  「今度は、こちらが礼を返す番じゃ。ヴィエンヌに、《ユダヤ教会堂シナゴグの巨人の剣》が置いてあるが、 それをとってまいらせる。デュランダルに次ぐ、そこもとにふさわしき剣はそれしかない。」  ロランは笑い、「わしには、この棒切れで十分じゃ」といいつつ、一本の樫の木を引っこ抜く。 さすれば我もと、オリヴィエは楡の木を根こそぎにして応戦する。
 五日目についにオリヴィエは手を休め、「これでは我々はいつまでも獅子や豹のごとく、戦いに あけくれつづけるに相違ない。なんとも無駄なことじゃ。それより、いっそ義理の兄弟になろう ではないか。どうだろう、わしには白腕のオードという、美しき妹がおるが、それと一緒になって はくれまいか?」  「重畳にござる」とロラン。「では、飲むとしますか。こたびはずいぶん汗もかいた」  という訳で、ロランは美しきオードと結婚しましたとさ。 {原文} 下の『
ロランの結婚 Le Mariage de Roland のリンク参照。

* 唐突なエンディングは、訳者(私)のはしょりではなく、ユーゴの原作どおりです。
* ヴィエンヌは(オーストリアのウィーンではなく)、ローヌ河岸、リヨンの28km南のヴィエンヌと解されることは、
すでにヴィエンヌのジェラルに関して触れました。
* クロザモンは、ここでは名剣オートクレールの別名ですが、『クロックミテーヌ』では騎士名とされているようです。

『クロックミテーヌ』(1863年)
Croquemitaine
 フランスの近代作家エルネスト・レピーヌ Ernest L'Épine (1826-1893。 ペンネーム Quatrelle)による、シャルルマーニュ
伝説の再話。
 作品は、三部構成で、第一部は、フランサックFransacで開催されるムーア王のマルシルの闘士たちと、
シャルルマーニュの臣将の模擬試合(トーナメント)。第二部は、シャルルによるサラゴッサの攻城。
第三部は、「恐怖の要塞」の寓話。
 英語版は、トム・フッド Tom Hood (1835-1874)による英訳(1867)があるが、
ロックパブリッシング社
より復刻本が再出版されている。[グスターヴ・ドーレの銅版挿絵の復元つき]
*原題Croque-Mitaineの意味は、フランスで子供たちの躾に、「よい子にしないとやってきますよ」と脅す、
悪の妖精や怪物のことである。

さて、この再話によるところの、名剣の由来は次のとおりである:
(名前は英読みで統一した。アイコンを指すとつづりと仏読みが吹きだしに出る。)

アンジアス Ansias, ガラス Galas とミュニフィカン Munifican の手でそれぞれ三本の剣が
鍛られ、剣一本ごとに三年の歳月が費やされた。

アンジアスAnsias
この刀匠が鍛えたのは、 パプティズムBaptism [英]->Baptême バプテェーム[仏]、 フローレンスFlorence フロランス[仏]、グラバンGraban グラバン[仏]の三振りで、
いずれもストロング=イ’=ザ=アーム[フィエラブラ] Strong-i'-the-Arm フィエラブラ[仏] の為に用立てしたものである。
ガラスGalas
この刀匠が鍛えた三振りは、シャルルマーニュに奉呈たてまつったフランベルジュFlamberge フランベルジュ[仏]
ジョワイユーズJoyeuse ジョワイユーズ[仏]、そしてクロザモントClosamont クロザモン[仏]用のオートクレールHauteclaire  オートクレール[仏]であった。
ミュニフィカンMunifican
この刀匠が鍛えた三振りは、ロランド(ロラン)用のデュランダルDurandal  デュランダル[仏]と、 デーン人オジエOgier the Dane オジエ・ル・ダノワ[仏]用の
ソヴァジンズSauvagins ソヴァジャン[仏]と コルタンCortan コルタン[仏]だった。
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(注): オリバー(オリヴィエ)の持ちもので、グロリウスGlorious[英]->Glorieuse グロリウーズ[仏]なる剣は、アンジアス 、ガラス、ミュニフィカン
の剣を九本とも「柄頭から1フィートのところで」 ぶった切りにした、とある。(『クロックミテーヌ』)
 上は、原典ではなく、Brewer's Dictionary of Phrase and Fable 事典の、 "Sword Makers"の項
より、訳して掲載した。

* ここでは、オートクレールがクロザモンという騎士のものになり、新たに創作されたグロリユーズがオリヴィエの持ちものになっています。 しかし、クロザモンの名は、『ロランの歌』にはありませんし、他にもそれらしいものは見当たりません。ただ、ヴィクトル・ユゴー作『ロランの結婚』では、クロザモンはオリヴィエの剣オートクレールの別名ということになっているようです。
* ストロング・イン・ザ・アームは、フィエラブラを"fier-à-bras" すなわち「腕自慢」と解釈して、意訳した名です。


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