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シュルルのバラード群 Sjúrðar kvæði

    記号: フェロー表記 [Fø.]  アイスランド表記 [Ís.]  〔* 緑色文字〕 普遍呼称(主にアイスランド)

竜殺しシュルルのバラード群

 は、竜殺しシュルル〔シグルズ〕にまつわる譚詩、端的にいえば、『ヴェルスンガ・サガ』の物語から取材したフェロー語バラードの作品群です。

 狭義的には、第1の小話:『鍛冶師レーイン〔レギン〕、第2の小話:『(女傑)ブリンヒルド〔ブリュンヒルド〕、第3の小話:『(王弟)ヘーグニの小話』からなる三部作を指します。

 しかし広義的には、シグルズに関連する、十数作からなるバラード群が含まれます。
 英訳者 E. M. Smith-Dampier のように、それを作品群サイクル* といってもさしつかえないでしょう。

 まず、上の三部作にの他に、『ドヴェルグの乙女』(第 I〜VI 歌まである)というシュルルの冒険譚外伝が加わります。例えば、(ワーグナー歌劇をのぞけば、)他に類をみない、シュルルが鍛冶師として腕をふるうエピソードなども興味深いところです。

 ヴァイキングの海王「ラグナルのバラード」オースラ〔アースラ〕の韻歌」も、ここに分類されます。

 この海王〔*ラグナル・ロズブローク〕は、シュルルの忘れ形見の娘オースラ〔*アースラ〕を後妻に迎えたと伝わるからです。

 また、"客人"ノルナ・ゲストは、ノルニール姉妹から長寿をさずかったため、シュルルの時代の目撃者でありながら、キリスト教をしいたオーラヴ・トリュグヴァッソンの時代まで生きながらえている老人です。

 主な展開は、アイスランド語のサガやサットル(短編)と共通しています。が、なかにはどのサガも触れていない描写(例:シュルルの母が、亡父の血染めの帷子を取り出して見せる箇所)や、サガとは相反する箇所(例:シュルルが名馬グラニを得たのは、滝つぼのところで捕らえたのだとする異説の伝承)も見受けられるので興味深いです。

 シュルルのバラード群については、それらが皆、おなじリフレーンの節を用いていることも、見逃してはなりません。「グラニは、荒野の黄金を背負しょったよ. . . シュルル は、竜を倒したよ. . 」の一句なのですが、これを Smith-Dampier は、これを「背負しょいの句」などと呼んでいます。

 以下、シュルル三部作を要約します。
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『鍛冶師レーインのバラード』 Regin smiður

 
シグムンドゥル王は、者共らをひきいて馬を馳せ、合戦に赴くが、ひとりとして帰らず。若き女王チェルドゥイス〔ヒョールディース〕みずから戦場に駆けつけると、そこには虫の息となった王が横たわっていた。

 女王は、なんとか妙薬でなおせぬものかと嘆くが、王は、異国の膏薬を求めても、自分はもう助からないだろう、と言う。

 敵のフンディン〔フンディング〕の息子らは、卑怯にも刃に毒をしこんでおり、その一撃を食らったので毒が心臓に達してしまったと。そして、二つ目の傷を負わされたとき、たのみの剣も二つに砕けてしまったと。〔* 毒刃は脚色。サガでは、広ぶちの帽子をかむる片目の男(オージン神)が介入して形勢が逆転したために敗れている〕

 瀕死の王は、身ごもる女王に、こう語らいかける。やがて男の子供が産まれよう。それは大器のうつわである。シュルル〔シグルズ〕と名付けよ。 そして剣の欠片は、川の向こうに住むレーイン〔レギン〕のところへ持参させ、鍛えなおさせるのだ。レーインは鍛冶師としての腕は確かだが、信用が置けないから油断できぬ、などと遺言をのこして王はこときれる。 〔*サガでは、王は息子にシグルズという名前はつけておらず、鍛えなおされる剣をグラムと名付けている。王はレギンのことには触れていない。〕
 チェルドゥイス女王は、純金の棺架をしつらえさせ、王は、塚のなかの墓に埋葬される。

 その未亡人に、抜け駆けで求婚したのは、チョールプレク〔ヒャールプレク〕だった。女王はこの人物と再婚するのだが、すでに懐妊していた女王はやがて 臨月をむかえ、男の赤子を産む。そして遺言どおりシュルルと名付けられる。

 シュルルはすくすくと育ち、その怪力で打ち下ろされると、王の臣下の偉丈夫たちさえ、 ひとたまりもなかった。

 若者たちのあいだでは、模擬試合(または軍事訓練)が行われるが、シュルルは独りのけ者にされがち。 若者たちがシュルルに対して怒りを勃発させることもしばしばで、かならずそれは暴力にうったえる喧嘩 となるのだった。

 あるとき、シュルルはたったひとり、多勢に無勢で立ち向かい、樫材の棒を引っこ抜いて、他の若者たちを 死ぬほどたたきのめした。

 地にころがる若者たちはしかし、こう悪態をついたのである。「こんなことして俺たちをぶちのめさずに、 親父の敵討ちでも果たしたらどうなんだ」と。シュルルの顔は、みるみる土色に変わる。

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 シュルルは剣の欠片を持って鍛冶師レーインを訪ね、鍛えなおしてもらうように交渉する。しかし十日かけて鍛えたものの、 鉄床かなとこめがけて、「やっ」と試し斬りすると、剣は砕けてしまう。シュルルは、激怒してやり直しを命じる。しかしこうまで居丈高にいわれては、レーインは憤慨を禁じえず、鍛えなおしてはやろう、しかし代償として竜のフレアヌル〔ファーヴニル〕の心臓を要求する、と談判をもちかける。

 〔* サガやエッダで知られるとおり、ファーヴニルは、もとも鍛冶師レギンとは兄弟であったが、父の遺産を独り占めにし、竜に変化したのである。〕

 二度目の試みでは、剣を鍛えなおすのに、三十日の月日が費やされた。再びやってきたシュルルが剣を試してみると、みごと鉄床かなとこを両断し、その下のうてなまで真っ二つにした。
 この剣で武装したシュルルは、まずフンディンの息子らを探し出し、これらを戦で討ち取って、みごと敵討ちを果たす。
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  次に、竜のすみかであるグリトラハイウル〔グニタヘイズ〕に出向くのだが、途中で遭遇した、独眼の旅の老人(オーヴィン〔オーディン〕とおぼしき人物)が警告を与える。レーインがお前にさずけた作戦では、お前は命を落とすぞ、と老人は言うのである。  〔* 『ヴォルスンガ・サガ』18章では、レギンの授けた作戦は塹壕にシグルズが隠れ、下から腹を突きあげるというもの。しかし、それでは毒の血が壕に溢れて危険である。よって、塹壕はいくつも掘れと老人が指摘する。バラードも大同小異だが、ただレーインが最初に「二本」掘れと指示したのを、老人が「四本」掘らせる。〕

さて、その住処につくと、竜は双翼(あるいは鰭のようなもの)を羽ばたかせて体をもたげさせ、威嚇するが、シュルルは名剣をふるって腹を両断(寸断)する。千切れ千切れになって血の海に横たわる竜は、相手を誰何する。そして自分の兄弟のレーインが導いたことを知り、シュルルにレーインにも自分と同じ仕打ちを与えてやってくれと頼む。その願いは結局、かなえられることとなる。

 レーインは竜の心臓を取り出した。それを食すつもりであったのだ。しかしそれを火で炙って調理したのはシュルルだった。しかし調理中に手に火傷を負った。他の伝承から、熱い肉汁に触れてしまったためだとわかる。その手を口に含むと、えもいわれない味がしたかどうかはわからぬが、たちまち鳥や小動物の会話を解すことができるようになった。

 
 樫の木に止まる小鳥は、心臓を自分で食べてしまえ、としきりに勧めている。サガかも知られるように、この心臓を食せば揺るがぬ勇気の心が得られるのだ。それを食べてレーインの奴めは何をしようというのだろう。ろく魂胆でないことはたしかである。シュルルは、先手を打って、竜の毒の血を飲むのに夢中だったレーインを抜き打ちに切り捨ててしまった。

 さるれば荒野の財宝はシュルルのものである。それは全部で十二櫃にもなったが、これを担わせてもなお、愛馬グラニはシュルルを跨らせて運ぶことができたのである。しかも荒れ地や礫がちらばる、足場の悪い道も平気で馳せていく。帰り先は王の館であった。

 
〔* 『ヴォルスンガ・サガ』第20章末では、シグルズはグラニに「大きな櫃二箱分」(í tvær kistur miklar")背負わせている。
 『ニーベルンゲンの歌』にはジークフリートが竜と戦った場面は無いが、侏儒こびとのニーベルンゲンから奪った財宝の量は、第三歌章/ 第92歌節において「百台の輜重車しちょうしゃ」(hundert kanzwägene)でももてあます量となっている。そして 第十九歌章/ 第1122歌節で財宝を移動する際、「十二輌の荷馬車」(zwelf kanzwägene)が「四昼夜」(vier tagen und nahten )、「日に三度も往復」(ietslîcher des tages drîstunde )かかったので、つまりのべ144台分ということになる。〕

[第2部につづく]
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