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「テュールとフェンリル」とされる金属板について
— såkallad "Tyr och Fenrisulven" Metallplåt

「テュールとフェンリル」図を採用する本

 下の画像は、あるスウェーデンの切手(1965 年)の一枚です。
— スウェーデン 1965 年 10 オーレ切手
Facit カタログ番号#604、スコット連番#727

 北欧神話関連の図書のいくつかでは、「テュールとフェンリル」であるとして紹介されているものと同じ絵柄なので、 見覚えのある方もおありでしょう。

 ただ、それが「神と怪狼」だとする根拠はかなり希薄であるようです。
 それでもこのオブジェがどこぞのものであるのか(出土した場所)、いったいなんなのか(記念碑の一部?工芸品?)、それらが不明だが興味あるという方も おありでしょうから、そこいらの調査結果を発表したいと思います。

 しかしまず、見た覚えはあるがどこだったが記憶にないという方のために、この図が使われている本の例を一、二、挙げようと思います。

 例えば、下図で示した『北欧のロマン:ゲルマン神話』の表紙で採用されていますよね。
— マッケンジー著『Teutonic Myth and Legend』の邦訳書、
『北欧のロマン:ゲルマン神話』の表紙(部分)

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 同書では、本文中(「第10章:悪神ロキの忌まわしい子供たち」 p.153)でも、このオブジェの複写デッサンを掲載し、「フェンリルを縛るテュール」だという見出しをつけています。
〔* ただし、原書(=英語版)
『Teutonic Myth and Legend』 by Donald A. Mackenzieでは、 使用される挿絵がまるっきり違うようですし、第10章でもこの図は採用されていないようです。〕

 いまひとつ例を挙げますと、アーサー・コットレル著『ヴィジュアル版 世界の神話百科』があります。 ただ、私がそれを見たのは英語版でして、しかも原書『The Encyclopedia of Mythology』から、 北欧神話部分を抜粋して製本した本なのですが、そこでは上の金属版の写真を掲載し:
Here, the brave god Tyr fetters Fenrir at the cost of his own hand, which he places in the wolf's mouth as a sign of trust (DIE, 8th century)
[ここでは勇気ある神テュールが、フェンリルを縛めているが、誠意の証として狼にくわえさせたその手は、代償として失われることとなる(8世紀の"鋳型")]
Arthur Cotterell 著 Norse Mythology』, p. 23
と説明しています。<マッケンジー訳本>では、掲載図が鮮明に欠けるモノクロ画で、一見しただけではそれが石版なのか金属プレートなのか ブラスの薄板の工芸品なのか、てんで判断がつきません。

 その点、<コットレル本>は、核心に一歩近づいています。掲載写真の出所を "Statens Historika Museum, Stockholm" と巻末で明記していますので、これは大きな手がかりです。

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博物館所蔵の実物

 手がかりにもとづいて、
Svenska Historiska Museetスウェーデン歴史博物館 サイト内を訪問してみましたら、Fornbild太古の画像 のコーナーで、実物の高解像度写真が検索可能でした。 全部で四枚存在する本題の金属板を探し当てることができました(582153645365番)。

 考古学的には、この四枚の金属板を神話の場面と決め付けておらず、このような説明をしています
  • 捕らえられた熊を引きまわす男 (10 ö)
  • (2)頭の熊と戦う男 (15 ö) img
  • 狼に扮した男 (30 ö)
  • 冠飾りのある兜をかぶる男たち (35 ö) img
切手と切手帖の発行

 そして金属板も四種あるのと同じく、切手も四種分発行されています。
— スウェーデン 1965 年 10 オーレ・15 オーレ・ 30 オーレ・35 オーレ・切手セット
Facit カタログ番号#604-7、スコット連番#727-30

 上のイメージは実は画像操作してあります。実際は10枚入りの「切手帖」で、以下のようなつづり構成です:

  10
オーレ
15
オーレ
30
オーレ
10
オーレ
35
オーレ
10
オーレ
15
オーレ
30
オーレ
10
オーレ
35
オーレ
 
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オーランド諸島・トースルンダの青銅板
大移動期(紀元400-800年頃)は我邦が初めて「列強国」となった時代である。ウプサラの墓陵や ヴェンデルおよびヴァルスイェーデの船墓は王侯や偉人を物語っている。 豪華な兜は、人物像をかたどるフリーズ(彫刻板)で装飾されていた。型押しされた薄い青銅版を 金属のマトリクス(基板)に上乗せしたものである。そうした金属板のうち、紀元6世紀頃の四例が、 今回の切手のモチーフとして使われている。ここに見えるのは、刀や槍をもつ兜の戦士たち、 狼の格好をした男の抜刀とその敵の逃亡、二頭の熊を相手に戦う男、斧を持つ男と杭に繋がれた獣。 様式化された表現豊かな場面に、鉄器時代の神話と英雄詩が登場している。ゆえに、 これらの板金は、比較的寸法が小型(4.5-5.5 cm)であるにもかかわらず、スウェーデン国家太古博物館の 所蔵する多数の財宝のなかでもとりわけ価値ありとされている。
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オーランド諸島(アハベナンマー諸島)

 これらが出土した場所は、実はスウェーデン所領ではありません。 「オーランド諸島」切手収集家ぞや知る、独自の郵政を行っており、コレクター筋ではひとつの「国」扱いになっています。

 発行切手の例としては、
JPS童話切手部会サイトの 会報186号「北欧神話 NORDIN 2004 8カ国」) をご覧になるとよいでしょう。

 ただ諸島が独立国家というわけではありません。ロシア独立以来フィンランドが「アハベナンマー諸島」と称して所有しつづけているのですが、 当の島の住民の大半がスウェーデン系なので反発してきたのです。スウェーデン国家への併合・領土割譲は至っていませんが、島々には スウェーデン語を用いての自治権が認められているのです。

 蛇足ですが、スウェーデンの 1976 年発行 15 オーレ切手〔* Facit # 971〕 に見える「蛇型の青銅バックル」 もオーランド諸島の出土品です。この蛇を<コットレル本> p.79 では「ユルムンガンドの図」としています。
切手帳の表紙絵に隠された「示唆」

— スウェーデン 1965 年 10 オーレ・15 オーレ・ 30 オーレ・35 オーレ・切手帖の表紙
(Facit カタログ番号 HA17B1)

 さて、上が当の切手帳の表紙なのですが、そこに書かれた「騎馬兵の絵」に注目してください。 じつはこれ、後年のスウェーデン切手で"Woden"(ウォーデン、つまりオーディン神)として取り上げられている図柄です。 詳細についてはまた後日書かせていただく(かもしれません)。
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