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Takamura Kotaro, age 51

高村 光太郎
(たかむら‐こうたろう)
Takamura Kōtarō
(1883-1956)


東京生まれ。詩人であるが、父の高村光雲(上野公園の西郷隆盛像や万博に展示された老猿で有名) を継いで彫刻家でもある。オーギュスト・ロダンに傾倒し、 『ロダンの言葉』の訳(1916)も出している。
その詩作の耽美主義から耽美主義に転向し、『道程』(1914)で口語自由詩を確立。 著名な『智恵子抄』が出版されたのは妻・智恵子の死後の 1941 年。
Born in Tokyo. Known more as a poet perhaps, but was also a sculptor like his father Kōun (famous for the statue of Saigo Takamori in Ueno Park and the "Old Ape" bronze exhibited at the world Exposition). He was a devotee of August Rodin and even translated and edited Words of Rodan(1916). As a poet, he began as an exponent of aestheticism but shifted to idealism, perfecting his colloquial free verse style in his Dotei (1914, The Journey). The well-known collection Chieko-shō(1941) was not published until 3 years after the death of his wife, Chieko, but were composed some 30 years before.

『智恵子抄』 より From Chieko-sho

人に

いやなんです
あなたのいつてしまふのが――

花よりさきに実のなるやうな
種子たねよりさきに芽の出るような
夏から春のすぐ来るやうな
そんな理屈に合はない不自然を
どうかしないでゐて下さい
型のような旦那さまと
まるい字をかくそのあなたと
かう考えてさへなぜか私は泣かれます
小鳥のやうに臆病で
大風のやうにわがままな
あなたがお嫁にゆくなんて

いやなんです
あなたのいつてしまふのが――

なぜさうたやすく
さあ何といいませう――まあ言はば
その身を売る気になれるんでせう
あなたはその身を売るんです
一人の世界から
万人の世界へ
そして男に負けて
無意味に負けて
ああ何といふ醜悪事でせう
まるでさう
チシアンの画いた絵が
鶴巻町へ買物に出るのです
私は淋しい かなしい
何といふ気はないけれど
ちやうどあなたの下すつた
あのグロキシニヤの
大きな花の腐つてゆくのを見る様な
私を棄てて腐つてゆくのを見る様な
空を旅してゆく鳥の
ゆくへをぢつとみてゐる様な
浪の砕けるあの悲しい自棄のこころ
はかない 寂しい 焼けつく様な

――それでも恋とはちがひます
サンタマリア
ちがひます ちがひます
何がどうとはもとより知らねど
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
おまけにお嫁にゆくなんて
よその男のこころのままになるなんて

(明治四十五年七月十五日作。原題「N−女史に」)

TO A PERSON

How I dread the thought
Of you leaving——

Like the bearing of fruit before blooming,
Like the sprouting of seed before sowing,
Like summer skipping on to spring,
It's contrary to reason, against all of Nature,
So don't you carry out this thing, I beg you.
A husband cast in the usual mold,
And you, with that curly script of yours,
It makes me cry even to think
That you, who are as timourous as a wee bird,
And all the same, as fickle as a gust of wind,
Are going off to be married.

How I dread the thought
Of you leaving——

Why is it that you so readily,
How should I put it—— consent
To being pawned off in this way,
Up for sale, yes indeed.
From the world of the one and only
To one among tens of thousands,
Defeated by some man.
Defeated all for nothing.
The disgrace of it.
As if, yes,
As if a painting by Titian
Was being hawked in Tsurumaki-town.
Do I feel lonesome? Saddened?
—— no, it isn't like that.
But rather like watching those gloxinia flowers,
Those great big flowers you brought me,
Like watching them rot away before me.
And once having left me, you too rotting away.
It's like watching the journeying birds in the sky,
Like fixing my gaze at where they're headed,
A sad, self-destructive feeling, like the crashing of waves.

—And still it's not an infatuation.
Santa Maria.
It's not. It's not.
Though I never know at the start what's what,
I dread the thought
Of you leaving ——
And that you'll be wed, no less,
To have done whatever another man pleases.

(composed 7/15/1912. originally entitled "To Ms. N")
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或る宵

瓦斯ガスの暖炉に火が燃える
ウウロン茶、風、細い夕月。

――それだ、それだ、それが世の中だ
彼等の欲するまじめとは礼服のことだ
人口を天然に加へる事だ
直立不動の姿勢の事だ
彼等は自分等のこころを世の中のどさくさまぎれになくしてしまつた
かつて裸体のままでゐた冷暖自知の心を――
あなたはこれを見て何も不思議がる事はない
それが世の中といふものだ
心に多くの俗念を抱いて
眼前咫尺しせきの間を見つめてゐる厭な冷酷な人間の集まりだ
それ故、真実に生きようとする者は
――むかしから、今でも、このさきも――
却って真摯しんしでないとせられる
あなたの受けたやうな迫害をうける
卑怯ひきょうな彼等は
又誠意のない彼等は
初め驚異の声を発して我等を眺め
ありとある雑言を唄つて彼等のひまな時間をつぶさうとする
誠意のない彼等は事件の人間をさし置いて
ただ事件の当体をいぢくるばかりだ
いやしむべきは世の中だ
づべき其の渦中の矮人わいじん
我等はすべき事を為し
進むべき道を進み
自然のおきてを尊んで
行住坐臥我等の思ふ所と自然の定律と相もとらない境地に到らなければならない
最善の力は自分等を信ずる所にのみある
蛙のやうな醜い彼等の姿に驚いてはいけない
むしろ其の姿にグロテスクの美を御覧なさい
彼等はただ愛する心を味へばいい
あらゆる紛糾を破つて
自然と自由とにいきねばならない
風のふくやうに 雲の飛ぶやうに
必然の理法と、内心の要求と、叡智えいちの暗示とに嘘がなければいい
自然は賢明である
自然な細心である
半端物のやうな彼等のために心を悩ますのはおしなさい
さあ、又銀座で質素なめしでも喰ひませう

(大正元年十月二十三日作。)

'TWAS A NIGHT

In the gas stove, a fire is burning.
Oolong tea, wind, a wispy evening moon.

—— That's it. —— How things stand in this world.
The kind of earnestness they want is ceremonial attire.
Artifice over what's natural.
Standing at full attention.
They've given up souls in the toss-up of this world.
Once the naked soul they knew, warm or cold ——
But you see this, and it's nothing to wonder at.
That's how things stand in this world.
All embrace many a mundane feeling,
in a gathering of dreadful, cold-hearted, myopic men.
And so, those who think to live life true
—— are always, still, and forever more ——
considered un-genuine, ironically.
And be persecuted, like you.
Those cowards,
lacking a shred of sincerity.
would exclaim in shock at the sight of us,
and hurl all sorts of insults. To bide their time.
Sincerity-lackers fiddle with the corpus delecti of the act,
and leave us actors in the act by the wayside.
It's the world that's the one that deserves scorn,
and the dwarves in the whirl of it ought be ashamed.
We must carry out the deed to be done,
take the road to be taken,
respecting only rules of our own,
and attain oneness with nature, stay or go, sit or stand.
The power of the highest good lies in self-belief.
Let's not be startled by our ugly-as-toad brethren.
But find them visions of grotesque beauty.
Let them savor our love for them.
We must defeat the calamity.
And live life natural and free.
Like the blowing wind, the fleeting cloud, never to betray.
Destingy and inner need and the dictates of reason.
Nature is wise.
Nature is attentive to detail.
So quit troubling over the others, those misfits,
Come, how about a meager meal in Ginza, as usual?

(composed 10/23/1912)
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僕等

僕はあなたをおもふたびに
一ばんぢかに永遠を感じる

僕があり あなたがある
自然はこれに尽きてゐる

僕のいのちと あなたのいのちとが
よれ合ひ もつれ合ひ とけ合ひ
渾沌こんとんとしたはじめにかへる

すべての差別見は僕等の間に価値を失ふ
僕らにとってはすべてが絶対だ

そこには世にいふ男女の戦がない

信仰と敬虔けいけんと恋愛と自由とがある
そして大変な力と権威とがある

人間の一端と他端との融合だ

僕は丁度自然を信じ切る心安さで
僕等のいのちを信じてゐる

そして世間といふものを蹂躙じゅうりんしてゐる
頑固な俗情に打ち勝ってゐる

二人ははるかに其処そこを乗り越えてゐる

僕は自分の痛さがあなたの痛さである事を感じる
僕は自分のこころよさがあなたのこころよさである事を感じる

自分をたのむやうにあなたをたのむ
自分が伸びていくのはあなたが育ってゆく事だとおもつてゐる

僕はいくら早足に歩いてもあなたを置き去りにする事はないと信じ
安心している
僕が活力に満ちている様に あなたは若若しさにかがやいている

あなたは火だ
あなたは僕に古くなればなるほど新しさを感じさせる

僕にとつてはあなたは新奇の無尽蔵だ
凡ての枝葉を取り去つた現実のかたまりだ

あなたのせつぷんは僕にうるほひを与へ
あなたの抱擁は僕に極甚ごくじんの滋味を与へる

あなたの冷たい手足
あなたの重たく まろいからだ
あなたの燐光のやうな皮膚

その四肢胴體をつらぬくいきものの力
此等はみな僕の最良のいのちのかてとなるものだ

あなたは僕をたのみ
あなたは僕に生きる

それがすべてあなた自身を生かす事だ

僕等はいのちを惜しむ
僕等は休む事をしない
僕等は高く どこまでも高く
僕等を押し上げてゆかないではゐられない

伸びないでは
大きくなりきらないでは
深くなり通さないでは

いったい何といふ光だ 何といふ喜だ

(大正二年十二月九日作。)

US

XXXXX
()

樹下の二人

—みちのくの安達が原の二本松松の根かたに人立てる見ゆ

あれが阿多多羅山あたたらやま
あの光るのが阿武隈川あぶくまがは

かうやつて言葉すくなに坐つてゐると、
うつとりねむるやうな頭の中に、
ただ遠い世の松風ばかりが薄みどりに吹き渡ります。
この大きな冬のはじめの野山の中に、
あなたと二人静かに燃えて手を組んでゐるよろこびを、
下を見てゐるあの白い雲にかくすのは止しませう。

あなたは不思議な仙丹せんたんを魂の壺にくゆらせて、
ああ、何といふ幽妙いうめうな愛の海ぞこに人を誘ふことか、
ふたり一緒に歩いた十年の季節の展望は、
ただあなたの中に女人の無限を見せるばかり。
無限の境にけぶるものこそ、
こんなにも情意に悩む私を清めてくれ、
こんなにも苦渋を身に負ふ私に爽かな若さの泉を注いでくれる、
妙に変幻するものですね。

あれが阿多多羅山、
あの光るのが阿武隈川。

ここはあなたの生れたふるさと、
あの小さな白壁の点点があなたのうちの酒庫さかぐら
それでは足をのびのびと投げ出して、
このがらんと晴れ渡つた北国の木の香に満ちた空気を吸はう。
あなたそのもののやうな此のひいやりと快い、
すんなりと弾力ある雰囲気に肌を洗はう。
私は又あした遠く去る、
あの無頼の都、混沌たる愛憎の渦の中へ、
私の恐れる、しかも執着深いあの人間喜劇のただ中へ。
ここはあなたの生れたふるさと、
この不思議な別箇の肉身を生んだ天地。
まだ松風が吹いてゐます。
もう一度この冬のはじめの物寂しいパノラマの地理を教へて下さい。

あれが阿多多羅山、
あの光るのが阿武隈川。

(大正十二年三月十一日作。)

TWO OF US BENEATH A TREE

XXXXX
()

あなたはだんだんきれいになる

をんなが附属品をだんだん棄てると
どうしてこんなにきれいになるのか
年で洗はれたあなたのからだは
無辺際を飛ぶ天の金属
見えも外聞もてんで歯のたたない
中身ばかりの清冽せいれつな生き物が
生きて独活いてさつさつと意欲する。
をんながをんなを取りもどすのは
かうした世紀の修業によるのか。
あなたが黙つて立つてゐると
まことに神の造りしものだ。
時々内心おどろくほど
あなたはだんだんきれいになる。

(昭和二年一月六日作。)

YOU GROW PRETTIER BY THE [DAY]

XXX XXXXX
()

あどけない話

智恵子は東京に空が無いといふ。
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉のあひだに在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山あたたらやまの山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとうの空だといふ。
あどけない空の話である。

(昭和三年五月十一日作。)

INNOCENT STORY

XXX XXXXX
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千鳥と遊ぶ智恵子

人つ子ひとり居ない九十九里の砂浜の
砂にすわつて智恵子は遊ぶ。
無数の友達が智恵子の名を呼ぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい――
砂に小さなあしあとをつけて
千鳥が智恵子に寄つて来る。
口の中でいつでも何か言つてる智恵子が
両手をあげてよびかへす。
ちい、ちい、ちい――
両手の貝を智恵子がねだる。
智恵子はそれをぱらぱらに投げる。
群れ立つ千鳥が智恵子を呼ぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい――
人間商売さらりとやめて、
もう天然の向こうへ行つてしまつた智恵子の
うしろ姿がぽつんと見える。
二丁も離れた防風林の夕日の中で
松の花粉をあびながら私はいつまでも立ち尽す。

(昭和十二年七月十一日作。)

CHIEKO PLAYING WITH PLOVERS

XXX XXXXX
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レモン哀歌

そんなにもあなたはレモンを待ってゐた

かなしく白いあかるい死の床で
私の手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ

トパアズいろの香気が立つ

その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした

あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ

あなたの喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた

それからひと時
昔 山巓でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた

写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう

(大正十四年二月二十三日作。)

US

XXXXX
()

『道程』 より From Journey

道程

僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
ああ、自然よ
父よ
僕を一人立ちにさせた広大な父よ
僕から目を離さないで守る事をせよ
常に父の気魄を僕に充たせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため

XXXX

XXX XXXXX
()

UNTITLED

XXXXX


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