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木下夕爾
(きのした‐ゆうじ)
Kinoshita Yūji
(1914 - 1965)

 


詩人。本名、優二。広島県生。。 第一詩集『田舎の食卓』(1939)により文芸汎論詩集賞受賞。『笛を吹くひと』(1948)、『定本木下夕爾詩集』(1966)など。
Poet, born in Hiroshima. See translations and literary criticism in: Kinoshita Yuji by Robert Epp, (Boston : Twayne Publishers, c1982. (→Amazon) and Treelike: The Poetry of Kinoshita Yuji

花の幻 

* 原文の載っていた文庫が今無いので、原文復元にふみきった:
(雑草と城址のあいだに子供の麦わら帽子と虫網が見え隠れする。 かつて号令や銃剣の鳴り響いていたあたりが、今はもう雑草だらけになっている。 原民喜の詩を刻んだ碑がそこに立っている。碑石のそばのくさいい切れの中に座る:)
「遠き日 の石に刻み
 砂に影おち
崩れ墜つ
天地のまなか
一輪の花の幻」

THE ILLUSIONARY FLOWER

Between the weeds of the castle ruins, a child's straw hat and his butterfly net comes in and out of hiding. Around where it once used to echo with commands and bayonets rattling, there's now just the weeds grown over. The monument inscribed with Hara Tamiki's poem stand there too. We sit in the stewing smell of grass beside the monument stone:
"Engraved in stone,
A day long gone.
Its shadow [now] falling on sand,
Amid the crumbling heaven and earth,
a single illusory flower."
〔解説〕
 詩碑を訪れた人がただこの文句を読んでも、なんのことだか判らない、 詩碑に「刻まれた」ことばが、遠い未来の来訪者を待っていたかのよう に読み取れてしまうだろう。

 しかし、事実は上に略述した詩人の人生の経歴から、 また、その書記である『夏の花』の文章を読んでみてもわかるとおりである。
 これは書きとどめられたときから七年さかのぼる「遠い日」、亡き妻の名を墓標に刻んだことを歌っている はずだ。

 「一年経ったらそちらにいくからね」と約束しておきながら待ちぼうけを食らわした 七年というのは心のどこかで重苦しく、その誓約をしたそのときは、さも「遠き日」であったにちがいない。
 『夏の花』の書き出しは、妻の墓参り、花を供えてきたときの思い出だ。

川端康成の女性が語ることばに
「死人にものいいかけるとは、 なんという悲しい人間の習わしでありましょう」
―『叙情歌』
というのがある。
 人は、お墓や仏壇に語りかけるのもそうだが、自分で供えた切花に、 亡き人の面影を忍ばせたりもする、というのである。
 ここでもやはり添えた花に愛した女性を重ね見たのだと思う。そのときの追憶が「幻」であろう。

〔追記:民喜の詩碑の破損〕

 これも何か別の詩で読んだ気がする。手元を調べた限り、どうやらクサーノのようである
ヒロシマ城のわきには日露戦争の大本営の遺跡があり。城壁には投げられた石で 傷ついた原民喜の詩碑がある。
―草野 心平『マンモスの牙』
 民喜の詩碑については、投石されて損壊されたこと、銅板が盗難にあったことがだきあわせで 記述される。「心ない人が〜」という常套句がつく。
 しかし建っている詩碑を、どうしても無傷の御影石のまま残すことに、さほどの意味があろうか。 倒されたならばまた「いちじょう」ずつ積みなおせばよいだけのことである。
 危惧される「記憶の風化」とは、そういった「ハコモノ」単位のことではないだろう。
 

 このページは、そもそも木下夕爾の詩のなかで民喜の詩碑にふれる、という構成になっている。 夕爾は、「ルポルタージュ詩」などと称したりして、いくつか原爆の生々しい傷跡にふれる作品を のこしているが、夕爾の「原爆乙女」の言及はみつからなった。頬や手のケロイド傷をレースで覆い、 鼻にこみ上げてくる血を夜な夜なすすりながら生きながらえてきている、と訴える女性の話。

 


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